原発再稼働と「廃炉要請」がなぜ同時期に 政府と電力会社の思惑とは? 国際環境経済研究所所長・澤昭裕
第二に、新規制基準やこれまでの原子力規制委員会の規制活動の実態から見て、仮に運転期間延長申請を行うとした場合、どの程度の安全対策投資を求められるのかよく見えず、出力の小さい高経年炉を維持することが経済的に見合う程度の投資で済むのかどうか確信が持てないという電力会社側の事情もある。 「『渋々』とか『嫌がる』電力会社に対して」という風に書きたいライターは多いとは思うが、実際には不確実性の中での投資をどこまで行うべきかというクールな経済計算が行われているわけだ。 特に国の安全規制方針の変更によって、これまで予定してきた廃炉日程を変更して前倒しせざるをえなくなる場合、増加する想定外費用の扱いなどをどうするのかなど、会計規則などさまざまな準備をしておくことが官民ともに必要になり、そのための時間が必要となる。 こうした準備作業を始めるとすれば、運転期間延長申請期限を到来する年度の前年度で、かつ半年くらいの時間的余裕を確保しておくことが必要だったということだろう。 電力システム改革が先行する中で、原子力問題の取り扱いは遅れに遅れてきた。その結果として、原子力政策の新たな策定に関連する諸要素が複雑に絡み合いながら、いちどきに新たな政策措置に向けての検討結果が出てくることが今後予想される。そうした諸要素に冷静に注目することが必要であろう。 ------------------------ 澤昭裕(さわ・あきひろ) 政策分析専門家。主著に『精神論ぬきの電力入門』、『エコ亡国論』など。原子力政策などのエネルギー問題や地球温暖化問題に詳しい。