原発再稼働と「廃炉要請」がなぜ同時期に 政府と電力会社の思惑とは? 国際環境経済研究所所長・澤昭裕
なぜ、廃炉検討の要請を?
実際のところどうなのか。 第一に、「廃炉検討」が再稼働に向けての雰囲気醸成だとか再稼働との「引き換え」だといった見方は少し無理がある。確かに、川内1、2号基の再稼働プロセスと時期は重なってはいるが、しかし現状、経済産業省も電力会社も、「廃炉検討」くらいで再稼働反対の世論が覆るなどという見方は持っていないだろう。その証拠に、その後の宮沢経済産業大臣からの鹿児島県への再稼働の必要性を説明した機会などにも、この「廃炉検討」の件は一切触れられてもいない。 そもそも再稼働自体は、今年4月に閣議決定したエネルギー基本計画に基づいて、エネルギー安全保障確保、経済活動への影響回避、温暖化問題対応等の観点から、規制委員会によって規制基準の適合が確認されたものは進めていくこととされているのである。国は、こうした方針のもと、世論調査やメディアの論説には反対が依然として多く残っているとしても、再稼働はそれ自体として進めていく計画だ。 第二に、事実関係として、いやがる電力会社を相手に「廃炉を検討せよ」と経済産業大臣が迫ったということでもない。上記の小渕前大臣の発言の報道が正しいと思うが、正確には「運転期間制限の40年を(60年を上限に)延長する手続きが迫っている炉について、その手続きを進めるつもりなのかどうなのかを早めに明らかにするよう」求めたものだ。 つまり、来年4月から7月の間に電力会社自身が判断しなければならない運転期間延長申請について、申請するのかしないのかを早めに明らかにしてほしいと言っているだけで、直接廃炉を求めているものではないのだ。原子炉は電力会社の財産であり、安全規制に適合している限り、その廃炉や運転継続や停止を決めるのは電力会社自身であり、国が求めることはできないからである。
地味な実際の理由は、政策的・経営的必要性
それでは、この小渕前大臣の電気事業連合会長に対する要請とそれに対する電力業界の反応の真意はどういうことなのか。実際の理由は至って地味なものだ。 第一に考えられる理由は、国のエネルギーミックスの定量的な計画策定に向けて、将来の原子力発電所の稼働状況がどうなるのかを把握しておく必要があるということだ。4月に決定されたエネルギー基本計画は、定性的な方針を記述したものにとどまっており、通常なら示される将来の発電量の定量的な電源構成まで踏み込んでいない。 ところが、来年の末に行われる第21回気候変動枠組み条約締約国会合(COP21)で、京都議定書に替わる新たな国際条約が締結される可能性が高まっており、その中で日本が将来どの程度の温室効果ガスを削減するかという数量目標を求められることは必至となっている。 その目標はできれば来年第一四半期、遅くても来年前半には国際的に提示する必要があることから、その目標設定のプロセスは既に始まっている。そのプロセスを進めるためには、温室効果ガス排出の中で大きな割合を占めている化石燃料による発電量が将来どの程度になるのか、その裏返しとして原子力や再生可能エネルギーの低炭素電源による発電量がどの程度になるのかを、国が把握しておくことが必須なのである。