棟方志功の倭画、60年前の輝き 金沢で修復、浅虫温泉「椿館」(青森市)に戻る
青森市出身の世界的板画家棟方志功(1903~75年)が同市の浅虫温泉のポスター用に制作した倭画(やまとが)が、石川県文化財保存修復工房(金沢市)での修復作業を終え、約半年ぶりに棟方ゆかりの温泉旅館「椿館」に戻った。60年ほど前に制作された作品に鮮やかさがよみがえったほか、額縁の内部の素材を補強するなど耐久性も向上。7日は館内ギャラリーへの展示作業が行われ、関係者からは「すてき」などと出来栄えに満足する声が上がった。 今回修復された倭画は1963(昭和38)年、浅虫温泉観光協会から観光用ポスターの依頼を受けて棟方が試作した原画の一つ。作品のサイズは縦95センチ、横66.5センチ(額縁縦166センチ、横106.5センチ)で「浅虫へ 海も山も温泉も」の文字とともに、湯の島など自然豊かな浅虫の風景が味のある色使いで描かれている。 椿館ではこの倭画を長く玄関に飾っていたが、今年4月のリニューアルを前に作品や額縁の素材に経年劣化が見られたため、古文書やびょうぶ、絵馬などさまざまな文化財の修復に実績のある同工房に修復を依頼。熟練の技術者たちが作品の塗装面の修復に加え、マット(作品と額縁の間の余白)の布や下地のベニヤの交換、額縁の表面カバーをガラスからアクリルに変えるなど長く展示できるよう多くの処置を施した。 同工房は棟方の疎開先の富山県内にある棟方作品の修復を手がけたことはあるが、青森県にある棟方作品を修復するのは初めてという。金沢市から椿館まで作品を搬入した石川県文化財保存修復協会代表理事の梶青華(せいか)さん(45)は「棟方志功は憧れの存在。出身地にある作品に関わることができてうれしい」と笑顔を見せた。 半年ぶりに戻った倭画の展示作業を見守った椿館女将(おかみ)の蝦名真希さんは「前より色鮮やかになったような気がして、すてき」と感慨深げ。展示面で助言を行っている棟方の孫で棟方志功研究家の石井頼子さん(68)も「生まれ変わった椿館に泊まってみたいと思う人が増えてくれたら」と期待した。