清宮が甲子園で覚醒させた3つのアーチスト天性
甲子園の準々決勝の九州国際大付戦で、早実の怪物1年生、清宮幸太郎がまた満員のマンモスをどよめかせた。2-0のスコアで迎えた4回、先頭打者として打席に入った清宮は「狙っていたわけじゃなかった」という初球の130キロが表示された、ややインサイド寄りの甘いストレートを見逃さない。打球は、低い弾道を描き、ライナーでライトスタンドへ。2試合連続本塁打。1年生が大会2本塁打を記録したのは、1983年にPL学園時代の桑田真澄が打って以来。 実は、初回の打席で、インサイドを攻められ止めたバットの根っこにボールが当たりピッチャーゴロに倒れた際、左手親指の付け根を痛めていた。テーピング処置をしたため二回の守りにつくのが遅れたが、「逆に力が抜けてよかった」というから、只者ではない。 7回無死一塁から今度は左中間へ大飛球。ラバーフェンスの一番上に当たる、あわや3号のツーベースだった。清宮は、ホームランについて「今日みたいなホームランが自分の形」と語った。おそらくヒットの延長という考え方だろう。 東海大甲府戦での甲子園初アーチに対して「西東京大会、1、2回戦では、小さくまとまっていたバッティングが変わった。フォローが出てきた」と成長点を指摘していた阪神DCで評論家の掛布雅之氏は、「ホームランバッターというのは、一発打つだけで変わるものだけど、本当に変わったね。右手をうまく使えてスイングのフォローが大きくなっている。本来、左手の押し込みがなければ打球は、飛ばないが、詰まって痺れたことで、左手の力でぬけ、右手を意識したのかもしれないね」と、さらなる成長を認めた。 甲子園は、急激な成長や進化を選手にもたらす舞台だと言われているが、清宮は、経験を積む度に甲子園パワーを吸い取りながら成長を遂げている。
掛布氏は、清宮にはアーチストとして3つの天性があるという。 「おそらくボールに角度をつけて、飛ばす感覚というものがわかったんじゃないか。それと彼には打ち損じをせずに一発で仕留める凄さがある。その理由のひとつが、右ひざとバットの出の柔らかさ。右ひざと、バットの出が柔らかいから、体が力まずに打ち損じをしない。精度が高くなる」 本塁打にした2本は、いずれも甘いコースで、ピッチャーのレベルが高くない、という指摘もあるが、そういうボールをミスせずに捉えるのが、清宮の天性のひとつ。 掛布氏は「加えて、あのスイングスピードを可能にしている肉体。それと、甘いボールを自分のゾーンに誘い込むバッティングの間、タイミングがあるよね。それら3つは、彼の持っている天性じゃないかな」、と分析した。清宮は、1.打ち損じを減らす柔らかさ、2.1年生とは思えない体格、3.タイミングの取り方という持っていた3つのセンスをさらに甲子園で磨き、覚醒させたのである。 大会最多本塁打記録は、清原和博が3年生の時に記録した5本だが、清宮が決勝まで進めば、チャンスは2試合残る。掛布氏は、「調子に乗れば、10試合に7本打つということも出てくるのが、アーチストと呼ばれるバッターの特徴。相手ピッチャーのレベルにもよるだろうが、あと2試合で3本を打っても不思議じゃないよな。それくらいのものを持っているよ」と、可能性がゼロでないという。 準決勝の相手は仙台育英。プロ注目の右腕、佐藤世那に対して、3つの天性を覚醒させた怪物1年生は、どんなバッティングを見せるのだろうか。