黒谷友香も出演! 直木賞作家・道尾秀介氏が独りで作り上げた「犯罪捜査ゲーム」が異例のヒット
本誌校了明けの23時すぎ。人もまばらな編集部で、20~50代の写写丸4人の心はひとつになっていた。 【画像あり】本物と見紛う捜査資料は、現物を手に入れて参考にしたという あるリゾートホテルのパーティで、「黒いバラ」の開発に成功した女性経営者が殺害された。キットを開ければ入っている手紙によると、同時に5歳の少年も行方不明になっているという。 プレーヤーたちは殺人現場の写真や供述調書、週刊誌の記事、二次元コードで読み取る動画や音声などをもとに、犯人や少年の行方を追う――。 写写丸たちは当初、“手柄の取り合い”で仲間割れ寸前となったが、最後は知恵を出し合った。すべての謎を解き終えるまでの4時間半、ぶっ続けで熱中した。 とくに、子どものころにアドベンチャーブックや『ファミコン探偵倶楽部』に親しんだ50代記者にとっては、「こういうゲームがあったらいいな」という、往年の願望が実現したかのようだった。 ミステリー作家で直木賞受賞者の道尾秀介氏が手がけた犯罪捜査ゲーム『DETECTIVE X』シリーズ(SCRAP)。2022年発売の前作『御仏の殺人』は5万部超という異例のヒットとなっている。写写丸が4人でプレーしたのはその第2作『ブラックローズ』だ。道尾氏が語る。 「僕は、ほかの人に目の前で先に謎を解かれるのがイヤなので、ソロでプレーするでしょうね(笑)。それに複数人でプレーすると、誰かが『これ、不自然じゃない?』と言った瞬間、全員がそこに注目してほかのヒントが見えなくなることがあるんですよ。もちろん、前作をソロプレーして、『今度は大勢でやってみたい』という人もいるでしょうし、どんなふうに遊んでくれるのかがとても楽しみです」 世のなかにないものは自分で作る。それは、道尾氏が小説を書く動機と同じだ。 アイデアを形にするため、ストーリーはもちろん、手がかりとなる書類や映像・写真のための絵コンテ、音楽まで自ら作った。 「役者が演じるサンプルとして、事件関係者全員の声を、まず僕がボイスチェンジャーを使って吹き込むんです。女子高生や5歳の少年になりきって演じたら、スタッフは本物の子どもだと信じ込んでいましたね(笑)」 そして、「黒いバラ」を開発した女性を演じたのは、なんと女優の黒谷友香だ。 「『ブラックローズ』では、ホテルのフロアを借り切って撮影しました。ただの作家である僕が、大女優の黒谷友香さんの演技指導をするときは、さすがに思い切りが必要でしたね。彼女には事前に役柄を説明してあったのですが、事務所経由で『彼女の生い立ちや人柄をもっと深く教えてください』と連絡があったんです。正直なところ、そこまでする必要があるのかと思いつつ、女性経営者の人格形成やバックグラウンドを長文で書き送りました。すると収録当日の黒谷さんは、仕草や話し方まで含め、その人物を完璧に演じてくれたんです。『これが女優さんか』と思わせられる、いい経験でした」 これまで、道尾氏はミステリー小説の枠を超えた作品を数多く生んできた。ページ中の二次元コードで音声を聴き、謎を解く『きこえる』(講談社)や、全6章のどこから読み始めるかで720通りの物語を楽しめる『N』(集英社)などだ。小説というホームがありながら、なぜゲームを作ろうと思ったのか。 「15年ほど前から『人狼ゲーム』や『DETECTIVE X』の発売元であるSCRAPの『リアル脱出ゲーム』にドハマリして、よりじっくり取り組める犯罪捜査ゲームにたどり着きました。アメリカやドイツ、フランスなどから50~60作は取り寄せて手当たり次第にプレーしていたのですが、犯人の供述が『2年前から不倫をしていて、カッとなって殺してしまった……』みたいに雑な感じでゲームが終わることが多く、ずっと不満だったんです。そこで、犯罪捜査ゲームと物語が融合したものを作りたいと思いました」 犯罪捜査ゲームは“独りでじっくり”。一方で人脈は独特の方法で構築し、創作の武器にもなっている。 「4、5年前の冬に、秋葉原の路上でギター1本で弾き語りをしている女性と出会いました。歌声とオリジナル曲がすばらしかったんです。その女性が、『御仏の殺人』や『きこえる』に参加してくれたユキナさん(愛探眼影・アイサガスアイシャドウ)です。『リーゼント刑事』の秋山博康さんも“ナンパ”しました。最初は、秋山さんの書籍を愛読していた僕が路上で呼び止めたら、『……いつから尾けてる?』とすごまれました(笑)。その後はお酒を飲みに行くようになり、創作中に警察の捜査手法などでわからないことがあったら、相談に乗ってもらっています」 謎を解いたときの達成感が犯罪捜査ゲームの醍醐味。だが、推理能力に自信のない読者はどうすればいいのか。 「僕だって『これは考えても絶対にわからない謎だな』という勘が働いたときは、ためらうことなくヒントを見ますよ。海外のゲームだと、1000人にひとりもわからないものが答えだったりしますから(笑)。でも第一級の謎は、悩んで悩み抜けば解けるんです。小説はどう読もうが読者の自由ですが、『DETECTIVE X』の場合は正規ルートを踏み外したり、序盤で犯人がわかるような資料がそろうようなことがあってはならない。何度もテストを繰り返しました」 『ブラックローズ』は定価4950円(税込み)。9月27日の発売に先駆けてイベントで先行発売されると、2日間で用意した3000部がほぼ完売。前作を上回るスタートとなっている。 小説とは違った新たな道尾氏からの挑戦状。未知の体験のはずなのに、あなたも「こういうゲームがあったら……」と待ち望んでいた自分に気づくはずだ。 写真・梅基展央
週刊FLASH 2024年10月8日号