ガンバ宮本恒靖新監督の初陣ドロー采配に見えた「変化とイズム」
トップチームの指揮官としての初陣で、J1はおろか、YBCルヴァンカップの舞台にすら立っていない若武者を大抜擢した理由を宮本監督はこう明かす。 「前半戦の戦いを見ているなかで、中盤の守備が改善点のひとつに挙げられると思っていました。高にはJ3でそういう役割を与えていましたし、(実際に)しっかりとしたパフォーマンスを発揮してくれた。J1は初めてでしたし、最初は緊張感があったと思いますが、守備面でボールをかすめ取るような動きを前半から見せてくれたし、時間が進むなかで後半には攻撃面でもよくなったと思います」 市立船橋高校(千葉県)から加入した昨シーズンからJ3の舞台で重用し、ゲームキャプテンを任せることで責任感をプレーに伴わせてきた高は、いわば宮本監督の秘蔵っ子。中盤の守備の強度を上げて、遠藤のゲームメイク力をより生かす布陣を組むうえで白羽の矢を立てられた。 「ツネさんからも守備の部分は期待されていましたし、僕もこの半年間、トップの試合に出られず、上から見ていたときに、自分が出ているときをイメージしながらここは距離を詰める、守備を絞るといったこともイメージしていた。練習でもできていましたし、それをピッチで発揮するだけでした」 尊敬の念を込めて指揮官を「ツネさん」と呼ぶ高は、後半終了間際に足をつらせながらもフル出場。チームトップの10.677kmを走破し、ガンバの中盤にダイナミズムを与えた。 クルピ前監督は遠藤と組むボランチのファーストチョイスを、ブラジル・サントスFC時代の教え子で、自ら強く希望して期限付き移籍で獲得したマテウスとしてきた。しかし、攻撃を得意とする分だけ遠藤と役割が重なり、その分だけ中盤の守備が緩くなる。 J3を戦った仲間たちがJ1のピッチにも立つなかで、マテウスが重用されたがゆえにベンチにすら入れなかった高を常に叱咤激励。アントラーズと対峙するピッチへ「出られなかった悔しさを忘れるな」と送り出した宮本監督は、中盤にもうひとつ変化を加えていた。 これまでは右サイドバックでのプレーが多かった米倉恒貴を、一列前の右サイドハーフで起用。外国人枠の関係で出場機会が減少していたオ・ジェソクを右サイドバックにすえ、2人がかりで前節まで脅威を放っていたアントラーズの左サイド、DF安西幸輝とMF安部裕葵を封じ込めた。 後半32分にベンチへ下がった米倉は、それでも27回とチーム最多のスプリント回数を記録。クロスが幸運にも相手GKの頭を越えて吸い込まれた今シーズン初ゴールに「さすがに狙ったとは言えない」と恥ずかしがりながらも、3日間の非公開練習で積んできた成果が出たと胸を張った。 「(宮本監督の)初練習からずっと前でプレーしていました。この暑さでもつかなという不安はありましたけど、練習から守備の部分はやっていたので、みんなが連動すればいけるという感じはありました」