ガンバ宮本恒靖新監督の初陣ドロー采配に見えた「変化とイズム」
タッチライン沿いのテクニカルエリアで、ガンバ大阪の宮本恒靖新監督は戦況を見つめ続けた。派手なゼスチャーで指示を送ることはあったものの、黒いポロシャツにグレーのスラックス、白いスニーカー姿の指揮官から喜怒哀楽が伝わってくる光景は最後まで訪れない。 FWアデミウソンが決定機を外した前半9分も、FWファン・ウィジョが倒されてもファウルにならなかった後半21分もほとんど微動だにしない。米倉恒貴の同点ゴールが決まった同25分も周囲へ向けて両手を下へ広げて、狂喜乱舞するのを鎮めるようなポーズを取った。 「試合の流れがどう変化していくのか、どちらのチームが優勢になっていくのかといった点を感じながら、という部分ではある程度、冷静にやっていたつもりです」 青天の霹靂にも映る監督就任から6日目。ホームのパナソニックスタジアム吹田に鹿島アントラーズを迎えた28日のJ1第18節で、日本代表のキャプテンとして2度のワールドカップを戦い、ガンバでも2005シーズンのJ1初制覇に貢献した41歳のレジェンドが注目の初采配を振るった。 試合結果から先に言えば、1‐1の引き分けに終わった。連敗こそ2で止めたが、勝ち星なしは6試合連続に伸びた。順位も16位で変わらず、現状のままでシーズンを終えれば残留をかけて、今シーズンから導入されるJ1参入プレーオフ(仮称)に回らなければいけない。 それでも前半戦の17試合で4勝3分け10敗と大きく負け越し、7月23日に今シーズンから指揮を執っていたブラジル人のレヴィー・クルピ監督を解任。J3に参戦していたU-23チーム監督、そしてトップチームのコーチを兼任していた宮本氏に再建を託したガンバに変化の兆しが現れた。 最大の変化は「中盤の守備」に集約される。 監督への就任要請を受諾してすぐに、ある選手へ緊急の連絡を入れた。8月中旬までJ3の日程が空くことに伴って神奈川・川崎市内の実家へ帰り、オフに入ろうとしていた2年目の20歳、ボランチの高宇洋(こう・たかひろ)を急きょ呼び戻した。 そして、新体制下で初めて行われた25日の非公開練習で、高をレギュラー組で起用した。38歳の大ベテラン、遠藤保仁とダブルボランチを組んだ高はこの瞬間から、念願のJ1デビューを常勝軍団アントラーズ戦で、それも先発で果たす光景を思い浮かべながら練習に臨んできた。