なぜザックは3枚目のカードを切らなかったのか?
試合の流れを変える「ジョーカー」として、ザッケローニ監督はFW齋藤学(横浜F・マリノス)をメンバーに入れている。水沼氏が指摘した「ドリブルで入っていける選手」とは、もちろん齋藤に他ならない。その一方で、194cmのハーフナー・マイク(フィテッセ)、185cmの豊田陽平(サガン鳥栖)の両FWの招集を見送ったことに対して、指揮官は5月12日の代表メンバー発表の席でこう説明している。「日本サッカーに空中戦の文化がさほど入っていない。幼少のころからボールを大事にする教育をされたメンバーが多く、空中戦の成功体験を持っていない。残り15分で空中戦を具現化するのは難しい」。 開幕前に3試合が行われた強化試合でも、試合終盤を想定したパワープレーは試されていない。コートジボワール戦がいわばぶっつけ本番だった。吉田をはじめとする選手たちの戸惑いが、ブラジルの地から伝わってくるのも無理はない。ザッケローニ監督就任後の4年間でほとんど試されたことのない、吉田を前線に据えたパワープレーへの是非について水沼氏はこう言及する。 「パワープレーとはそもそもネガティブな発想であり、ターゲットとなる選手のヘディング一発でゴールを決めるのではなく、そこからのセカンドボールを含めて、相手ゴールにより近いところで何かを起こすことが一番の狙いとなる。もっとも、ザッケローニ監督は試合後に、タテパスを入れる目的でボランチの青山敏弘を(3人目の交代選手として)入れるかどうかで迷っていたと明かしている。個人的にはボランチを一枚、例えば山口蛍を下げて齋藤を入れてもよかったと考えているけれども、ザッケローニ監督にはそれ(パワープレー)しか発想がなかったのだろうか」。 ボールポゼッションで圧倒したと言っても、日本が迎えた決定的なチャンスは後半23分の大久保、同26分の内田がペナルティーエリア内に侵入してシュートを放った2度しかない。堅守を伝統とするギリシャに「ボールを持たされた」と考えるべきであり、けがでエースストライカーを欠き、さらには退場者を出した直後に「ドロー」に変更されたギリシャのシナリオにまんまとはまったことになる。