なぜザックは3枚目のカードを切らなかったのか?
特に大久保のシュートまでの連動性は、引いた相手を崩す理想的なパターンだった。敵陣の中央で大久保と短いパスを交換したFW香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)が右サイドに走り込んだ内田へ大きく展開し、低く速いグラウンダーのクロスに対して大久保がファーサイドに飛び込んだ。 左足によるシュートはゴールの枠を大きく外れてしまったが、このとき、ニアサイドにはFW岡崎慎司(マインツ)が詰めていた。こうした攻撃を繰り返していけばギリシャの城壁に風穴を開けられたはずだが、残念ながら単発で終わってしまった。 水沼氏はこうした攻撃を選手たちが最後まで実践できなかった点が、勝ち点3を奪えなかった最大の原因だと力を込める。「相手を揺さぶるためには、人が走らなければいけない。今大会におけるブラジルやコロンビア、チリに代表されるように、前にかかってくるチームはボールを味方に渡した後に、自分が再びもらおうとして走る。ワン・ツーやパス・アンド・ゴーというプレーは確かに単純だけれども、それがゴール前で出ないと相手に怖さを与えられない。日本の場合はほとんどがボールを渡して終わり。1対1で仕掛けるシーンがあったとしても、残念ながらペナルティーエリアの外ばかりだった。そうしたプレーの積み重ねが、クロスを跳ね返していればいいという余裕をギリシャに与えてしまった。ボールをキープして、前に運ぶことが自分たちのサッカーだと思い込んでいるような雰囲気を、ここにきて感じざるを得ない」。 ザッケローニ監督は就任以来、勝利へのキーワードとして「勇気とバランス」を唱えてきた。リスクを冒すチャレンジを、攻守のバランスを保つギリギリのところで発揮し続けろという意味だ。しかし、4年間の集大成となるワールドカップを迎え、大会独特の雰囲気と緊張感がワールドカップ初体験となるイタリア人指揮官の采配と選手たちのプレーから「勇気」を奪い去ってしまったのか。結果として「バランス」だけが残った日本のサッカーには閉塞感と臆病さが漂い、自力でのグループリーグ突破消滅という断崖絶壁の状況に自らを追い込んでしまった。 (文責・藤江直人/スポーツライター)