「地域にとってのサードプレイスでありたい」 定年後、長年住む松戸で開業:本屋BREAD&ROSES・鈴木祥司さん
生きるために、読んでおきたい本
そんな鈴木さんに、おすすめの本を挙げてもらった。1冊目は『くらしのアナキズム』(ミシマ社)だ。文化人類学者の著者が、文化人類学の視点から、人間が生きていくために本来あるべき考え方を分かりやすく解説した本だ。 「アナキズムというと、無政府主義と訳されてあたかも政府を転覆させる思想のように思われがちですが、ここで書かれていることはそうではなく、むしろ、社会問題を行政などに委ね、関わりを放棄するのではなく、自分たちはどうするべきなのかを気づかせてくれる本です。国家とは何か、自治とは何か、民主主義とは本来こうあるべきではないか、という本質的なことを考えさせてくれる。すごくいい本だと思っていて、6月末にこの本の読書会を開催することにしました」 2冊目は、『沈黙の勇者たち ~ユダヤ人を救ったドイツ市民の戦い』(新潮選書)。ナチスが1943年6月に「ユダヤ人一掃」を宣言した時点で、約1万人のユダヤ人がドイツ国内に取り残されていた。収容所送りを逃れて潜伏していた人たちのうち、約半数が生きて終戦を迎えることができた。実はそこに、反ナチ抵抗組織だけでなく、娼婦や農場主といった無名のドイツ市民による救援活動があり、本書はその実態を丁寧に掘り起こしている。 「ユダヤ人差別が蔓延する中、自らにも危険が伴うにも関わらず、なぜ手を差し伸べ、どう乗り越えたのかといったことが、とても丁寧に研究されていて、読み物としてもとてもおもしろい。人間の本質とは何か、争うだけでなく助け合うのも人間の本質ではないか、といったことを考えさせられる一冊です」 3冊目は、『キャラメル工場から ―佐多稲子傑作短篇集』(ちくま文庫)。プロレタリア作家としてスタートを切り、戦後も執筆活動の傍ら、女性の地位向上や平和運動に力を注いだ著者の短篇集だ。 「自身の体験を元にした物語が多く、持たざる者の悲しみや怒り、やるせなさがひしひしと伝わってきます。時代に翻弄されながらも誇りを持って生きる姿が描かれ、小説としてもプロレタリア文学の豊潤さを感じさせる作品集です。文章表現も素晴らしく、この収録作を用いた朗読会も開催したいと考えています」 4冊目は絵本だ。同店では、児童書や絵本なども取り揃えている。この『わたしは地下鉄です』(岩崎書店)は、韓国の絵本の翻訳版。ソウル市内を地下鉄2号線が、停まる先々の駅での乗り込んでくる、市井の人たちの人生を語るというものだ。 「地下鉄の目線で乗客一人ひとりにフォーカスした、ユニークな絵本です。地下鉄に乗り合わせた人たちは一見ただの集団にしか見えませんが、その一人ひとりにはかけがえのない暮らしや人生があることに気づかせてくれます。他者への想像力が低く、顔の見える関係が希薄な現代社会に警鐘を鳴らす絵本だと思います」