シャープの相次ぐ資産の売却、これは過去との決別であり、再成長の足掛かりなのか?【CEO年頭挨拶】
既存事業の売却を進めているシャープ。その先にあるものは? CEOの社内向け挨拶から探る。 【もっと写真を見る】
シャープの沖津雅浩社長兼CEOは、2025年1月6日、社内イントラネットを通じて、社員に向けたメッセージを発信。そのなかで、2025年5月に予定している2024年度決算発表において、新たな成長戦略を打ち出すことを明らかにした。 具体的な像がまだ見えてこない、アセットライト化と再成長 同社は2024年度を構造改革の1年に位置づけ、「アセットライト化」を推進している。ブランド事業に集中した事業構造を確立して、負のサイクルから脱却することを目指してきた。2025年から2027年度においては、「再成長」のフェーズとし、「成長モデルの確立」と「本社機能の強化」に取り組み、既存ブランド事業と新産業の相乗効果による正のサイクルを創出することを目指している。 だが、2024年度の時点では、こうした方針を示してはいたものの、具体的な数値目標には一切言及していない。 シャープの沖津社長兼CEOは、「2024年度も、最後まで全社一丸となって業績向上に取り組もう。そして、5月の本決算で公表値達成を発表し、新たな成長戦略を打ち出すことで、反転攻勢し、シャープ再成長の狼煙(のろし)を上げ、次のステージへと歩みを進めていこう」と、社員に呼びかけた。 「再成長」のフェーズと位置づけていた3ヵ年の新たな成長戦略が、具体的な数値目標を掲げた成長計画として発表されるかどうかが注目される。 新年のメッセージでは、「再成長に向けて」と題して、2024年を振り返るとともに、2025年の抱負について述べている。 冒頭では、2024年に、日経平均株価が約34年ぶりに史上最高値を更新し、日本経済に新たな成長の兆しが見えてきたこと、国際社会では、アメリカ大統領選挙をはじめ、各国で重要な選挙が行われた「選挙イヤー」となり、これから政治的転換期を迎える可能性があることを指摘。さらに、生成AIの普及により、企業や個人の働き方、クリエイティブな活動が大きく変化しはじめ、今後は、こうした技術をいかに使いこなすかが企業の競争力を大きく左右する時代に入ってくることを示唆した。 その上で、「シャープにとっての2024年を振り返ると、5月に中期経営方針を発表し、6月末に新体制を始動。その後着実に業績を積み上げ、上期には2年ぶりとなる営業黒字を達成することができた。また、今年度の最重要経営課題である『アセットライト化』についても、各プロジェクトが着実に進展している」と報告した。 シャープの事業を象徴する資産がどんどん売却されていく アセットライト化については、2024年6月以降、ソフトバンクと、グリーンフロント堺の土地および建物の一部譲渡に関する協議を本格的に開始し、12月20日の取締役会で、同案件に関する方針を決議。今後、最終協議を詰め、早期の契約締結を目指しているという。ソフトバンクでは、AIデータセンターの稼働を目指して、250メガワット規模の電力の供給が受けられることを条件に、シャープ堺工場の約45万m2の土地と、延床面積約84万m2の建物などを、約1000億円で取得することを発表している。 また、KDDIとのAIデータセンター構築に向けた協議についても、順調に進展していることを示し、「2024年度中の決着を目指す」とした。 KDDIとの協議では、当初、シャープ、KDDI、Supermicro、データセクションの4社による話し合いを進めてきたが、この協議を終了し、2024年12月に、シャープとKDDIによる基本合意の締結に変更。KDDIは、シャープ堺工場跡地の土地や建物、電源設備などを譲り受けることで、2024年度中にAIデータセンターへの転換工事に着工し、2025年度中に本格稼働させることを目指している。 また、12月26日には発表した積水化学工業への堺本社工場棟の譲渡の合意についても言及。「これに伴う本社の移転先については現在検討中であり、決定し次第、速やかに伝える」としている。 さらに、シャープでは、12月27日に、鴻海の子会社であるFullertainと、カメラモジュール事業の譲渡に関する契約を締結。「当初は、事業全体を譲渡すべく交渉を進めてきたが、結果として、シャープセンシングテクノロジー(SSTC)の生産子会社であるSAIGON STEC CO., LTD.(SSTEC)の株式の持分およびSSTCが保有する固定資産などを譲渡する形になった」と報告。「関連事業に携わる従業員の雇用については、今後予定されている先方からの個別転籍オファーの状況を見つつ、グループ内での再配置を検討していく。できる限り多くの雇用を確保できるよう、引き続き全力を尽くす」と述べた。 ブランド企業・SHARPの新たなスタートとは? 沖津社長兼CEOは、2024年を総括し、「再成長に向けた確かな基盤の構築に、全社一丸となって取り組んだ1年であり、それぞれの取り組みが着実に成果につながりつつある」とコメント。また、社内で実施した第2回エンゲージメントサーベイの結果が、前回よりも若干改善していることにも触れた。第2回エンゲージメントサーベイの結果は、現時点では速報値を見ただけであり、「今後、私自らが詳細を確認し、さらなる改善に努めていく考えである」とした。 一方、2025年については、「いよいよブランド企業“SHARP”としての新たなスタートを切る1年になる」と位置づけ、「今年の仕事始めにあたり、私たちの原点である創業の精神である『経営理念・経営信条』と『まねされる商品をつくれ』に、いま一度、立ち返ってもらいたいと思う。そして、一人ひとりが『誠意と創意』を、いかんなく発揮し、全員の力で、シャープらしい新たな価値を次々と創り上げていこう」と呼びかけた。 メッセージの最後には、正月休みに、京都の伏見稲荷大社を訪れ、願い事が達成されるように祈念して創られた「達成のかぎ」を授かってきたエピソードを紹介。「私はこの『達成のかぎ』を、毎年授かるようになって以降、多くの年で業績目標を達成することができている。今年度も公表値を必ずやり遂げることができると確信している」と語った。 2025年は、シャープが再成長の狼煙を上げることができるかどうかが注目される。 文● 大河原克行 編集●ASCII