「君よ、大樹たれ」難病ALSと闘う合唱部の先生、28歳で診断され“失意”も…今、子どもたちに伝えたい思い
■ALS患者が日本での実用化を待つ新薬
今年になって薬を飲み始めたというが、その薬はALSの進行を遅らせる可能性はあっても、改善には至らないという。「今できるのはこれしかない。もうこれに託しているというか」。 いまだ治療法が確立されていないALS。竹永先生が抱える家族性ALSは、SOD1(エスオーディーワン)という遺伝子の異常が原因とされている。その治療薬として期待ができる新薬「トフェルセン」が2023年にアメリカで承認された。 竹永先生が服用を始めた薬とは違い、根本的な原因に働きかける初めての薬だ。しかし、トフェルセンには課題があるという。 九州大学 大学院医学研究院の山﨑亮准教授は「そういう薬は早期に使わないと、神経細胞がダメージを受けた後に使っても有効にはならない。(海外で承認された薬が日本で)1年以内で新たに承認されたというのは、私は聞いたことが無いです」と説明した。 2024年5月21日、新薬トフェルセンを開発した製薬会社が厚生労働省に承認を申請。2024年12月2日にトフェルセンの製造販売を承認することが了承され、日本ALS協会が早期の実用化を求めている。個人で輸入する方法もあるが、その場合に年間でかかる費用は、およそ3000万円と言われている。 「それが1年で終わりではなく、打ち続けないといけない薬なので、3000万円を毎年準備するのは現実的に難しく不可能なことなので…」(竹永先生)
■涙の卒業式、そして新たな一年へ
2年間共に過ごした6年生たちの卒業式。合唱部の部長を務めた生徒から竹永先生への感謝の言葉が伝えられた。 「竹永先生の指揮と古賀先生の伴奏で歌ったコンクールでの樹形図は、一生忘れられない思い出になりました。竹永先生、今まで僕にいろいろな経験をさせてくれてありがとうございました。今までたくさん助けてもらったので、もし先生が困った時は僕が飛んでいきます」 そして、今度は竹永先生が生徒たちに向けて思いを伝える。「皆もこれからいろいろなことがあると思う。全部周りのせいにして生きていくこともできるかもしれないけど、何があっても『でも頑張ろう』と思うエネルギーを持っていってほしいと思います」。 合唱部の卒業式で最後に歌うのはRADWIMPSの「正解」。生徒たちが自分らしく思いきり歌う姿に、指揮をする竹永先生は涙を流していた。 「制限時間はあなたのこれからの人生 解答用紙はあなたのこれからの人生 答え合わせの時に私はもういない だから採点基準はあなたのこれからの人生」(正解より) 始業式の日を迎えた竹永先生。「5年1組の担任の先生は、竹永亮太先生」と担任発表が行われると、生徒たちからは歓声があがっていた。そして合唱部には、新たに7人の部員が加わった。子どもたちと竹永先生の“新たな一年”が始まった。 (九州朝日放送制作 テレメンタリー『君よ、大樹たれ ~合唱部の先生は家族性ALS~』より)