「君よ、大樹たれ」難病ALSと闘う合唱部の先生、28歳で診断され“失意”も…今、子どもたちに伝えたい思い
全国大会の日、生徒たちは緊張した面持ちでステージに上がった。自由曲の「樹形図」では、指揮者の竹永先生と部員全員の思いが一つになって会場全体に美しい歌声が響き渡った。 「君よ、大樹たれ その歩みを樹になぞらえよ 今、君が見上げる大樹も 始まりは小さな種だったこと 君よ、大樹たれ」(樹形図より) 審査の結果、日明小合唱部は見事2年連続の金賞を獲得することとなった。
■ALSを4世代に渡り遺伝、家族たちの思い
結婚してから6年間、竹永先生を支えてきた妻の三央さんは「もう少し自分を大事にして、休んでほしいなとは思います。たくさん仕事を抱えて帰ってくるので、一つくらい無くしてもいいのではないかと言ってしまうが、結局は本人がやりたいようにと思うので…」と胸中を語った。 ALSは、突然発症する孤発性(こはつせい)のほかに、家族から遺伝する「家族性」がある。竹永先生は母親から「遺伝」したものだった。遺伝する確率は、およそ2分の1と言われているが、亡くなった曾祖父と祖父、そして現在も闘病中の母親と自分の4世代に渡り遺伝した。現在、2人の妹には症状は現れていない。 2年前、妹の友梨さんには長男が生まれたが、妊娠する前には葛藤があったという。「ALSが遺伝するかもしれないから子どもは作らないほうが良いのではないかと思っていた。それを夫に言ったらすごく怒られて。なったらなったで自分たちが支えていけばいい、作らないという選択をするのは違う。それはALSになっている母に失礼だと言われて」(友梨さん)
今後、ALSを発症する恐れがある妹たちは、病と闘う兄の姿を見てきた。上の妹・友梨さん、下の妹・舞さんはそんな兄に励まされてきたという。 「兄は不安には思っているだろうと思うけど、それを絶対に感じさせない。私たちは絶対大丈夫だからねと、逆に励まされる」(友梨さん) 「大学生の時にすごく不安になったことがあって、その時も兄が相談に乗ってくれた。『高校生の時に不安だったよ』『でも絶対大丈夫』だと。兄の言葉はなぜかわからないけど不思議と大丈夫だと思えた。兄は今を精一杯過ごすのがお母さんを安心させる一つだと話していて、そうだなと思いました」(舞さん) 闘病中の母に対して竹永先生は「前向きに生きていると母には伝えたい。何も心配しなくていいし、何の責任も感じてほしくない。今、自分は幸せだということを伝えたい。それが伝わったら嬉しいですね」と力強く語った。