佐藤二朗、「芝居の垢を排除したい」 持つ者と持たざる者の境界線を描いた書き下ろし戯曲で宮沢りえと舞台初共演【インタビュー】
佐藤二朗、「芝居の垢を排除したい」 持つ者と持たざる者の境界線を描いた書き下ろし戯曲で宮沢りえと舞台初共演【インタビュー】 2/2
-なるほど。今回、介護や障害者に目を向けたきっかけがあったのですか。 垣内俊哉さんというミライロという会社の方です。障害者手帳というものは、これまで100何種類あったらしいんですよ。ゆえに偽造もあったらしいんです。だけど、それを運輸省に働きかけてJRで統一した「ミライロID」という共通の障害者手帳を作ったりしたすごいやり手の方なんです。ご本人も車椅子なのですが、その人が番組で話していたことが、俺がやりたいことと重なったんです。「バリアフリーではなくバリアバリュー」。「障害がかわいそうではなく、障害を武器に、障害が価値になる」。その分かりやすい例として彼が話したのは、彼がバイトで入った会社の社長に営業をやらされたと。「僕はデスクだと思っていたら、なんで車椅子なのに外回り?」と。そうしたら、成績がものすごく良かった。もちろん、垣内さんが優秀だからというのは大きいと思うんですけど、その社長もすごいなと思ったんですよね。「障害を誇りに思え」と垣内さんに言ったそうです。だから、もちろん溝がない方がいいに決まっているし、同じように共生できる社会がいいと思うんだけど、僕が祈るような気持ちで信じたいのは「負は力に変えられる」ということなんです。だから最初は健常者の方にこの障害のある役を演じてもらおうと思ったけれども、実際、僕がこの目で、板の上で見たかったので、そうなる姿を。それで、ハンディキャップのお二人にオファーしたということです。 -ちょうどハンディキャッパーの方々のお話になったので、佐藤さんが感じる、佳山(明)さんと上甲(にか)さんの魅力は? 僕は「歴史探偵」という番組をやっていて、そのプロデューサーが「バリバラ」というEテレの番組をやっていまして、その番組で「障害者は俳優になれないのか」という特集があったんです。そこで上甲さんがいらして。NHKのSDG’sドラマ「真ん中のふたり」を見たり、他にいくつか演技しているのを見たり、じっくり面談をして、彼女の意向も確認した上でオファーしました。佳山さんは『37セカンズ』という映画の主演をやられていて拝見しました。お二人に共通して言えることは、芝居の「垢(あか)」がないということ。ちょっと抽象的ですが。僕も芝居の垢をなるべく排除したいと思って日頃からやっていますが、彼女たちには本当に垢がない。これは素晴らしいことだと思います。垢があると、どんどん生(なま)から遠ざかってしまうと思うので。 -では、佐藤さんが役者ではなく、脚本を執筆したり、映画を監督したりと制作サイドに回ったとき、役者ではない立ち位置で作品に臨む時に大切にされていることや信念はありますか。 面白いものを作りたい。この一言です。あとは自分がつくるときはオリジナルにこだわりたいと思っています。 -それは、自分のメッセージを伝えたいみたいなところで? もちろん原作モノも大いにあっていいし、僕も役者として喜んで出るし、原作モノにも素晴らしい作品が本当に山ほどあります。 ただ、原作モノばかりになってしまうと、少し寂しい気がします。作り手の才能の新たな可能性を引き出すためにも、もう少し「オリジナル」が増えたらいいなと思っています。 -改めて公演に向けての意気込みをお願いします。 とにかくいい芝居をしたいと思っています。本のストーリーのうねり、筋、舞台美術や衣装、照明、音楽といろいろな要素があるけれども、やっぱり俳優のいい芝居を見せたいと思います。舞台には「編集」がないですから、俳優の生のいい芝居を見せたいなと。本当にそれが一番です。 舞台「そのいのち」は、11月9日~17日に都内・世田谷パブリックシアターほか、兵庫、宮城で上演。