「医師で作家」が精神崩壊寸前で気づいた“幸せ” 「勝ちまくった人はいずれ精神に変調をきたす」
覚えが良くなったわけではないけど、大学では僕なりに一生懸命学んだ。医学生のうちの無数の試験たちは、相変わらず暗記力を要求されるものだったから、苦戦はした。 6年の最後である医師国家試験の勉強は、18年経った今でもたまに夢に見る。恐怖に泣き出すやつ、パニックになって夜に彼女を鹿児島から呼び出すやつ、試合中にトイレで吐くやつ、いろんなことがある3日間の試験だった。 ここまでの試験は、100メートル走とか水泳自由形みたいな、まったくの個人競技だ。社会人になって、僕の場合は医者になってからは、個人だけではどうしようもないことが多くなる。友人が「社会人はチーム戦」と言ったが、本当にそうだ。ここには暗記力以外の能力が必要になる。
たとえば、適切な人に助けを求める能力。相談したらきちんとお礼をする能力。相談できるような友達を作る能力、などだ。もしかしたら僕は、チーム戦のほうが得意だったかもしれない。とても幸運なことに僕の周りには僕を引っ張り上げようとしてくれる人や、僕が幸せになるように努力してくれる人がいた。どれほど恩返しをしてもしたりない人が、僕の人生には何人も登場する。 ■「勝ち」にこだわる看板をおろした そんなふうにしてこれまで100戦のうち50勝50敗くらいで、僕はなんとかやってきた。
そうして年を重ね、40歳を過ぎる頃にこんなことに気づいた。 「勝ち負けにこだわることは、何かを成し遂げるうえでとても大切なことだ。でも、異常なまでにこだわると精神が破壊される。この世で勝ちまくった人はいずれ精神に変調をきたす。そこまでして勝ちたいかどうか、自分の頭で考えて決めなければ」 僕の30代は、勝つことが多かったと思う。 医者として専門医の資格を次々に取り、技術を高めた。作家としては初めての本を出し、小説を書いて出し、ドラマにもしてもらい、『泣くな研修医』シリーズはベストセラーになった。医学書も書いた。