自動車業界で長年働いてきた私が、ぶっちゃけ「自動運転バス = 実用化まだ遠い」と思うワケ
実験のあるべき姿
近年は、自動運転バスの実証実験が頻繁に実施されており、毎月のように全国のどこかで自動運転バスが公道を走行している。実証実験の頻度が増す一方、他の車両との接触事故も頻発しており、ニュースとしても報じられている。 もちろん、安全は最優先されるべきで、本来は交通事故があってはならないが、接触事故などがひとたび起きれば、その原因究明と対策が必要となる。誤検知や誤作動など、いろいろな走行シーンで事故を予見するための知見を蓄積するために、ある意味では事故は必要悪であるとも考えられる。 今回の実証実験では、安全を配慮し過ぎていた印象は否めず、本来は自動運転で走行すべきシーンもあったと感じた。 そのシーンとは、直進方向に向かって左側に車両が停車していた車両を追い越したところだ。追い越しは計2回あったが、そのうちの複数レーンを走行していたときは、右側のレーンの交通量が多かったので、合流しながら停車車両を追い越すことは困難で、手動への切り替えはやむを得ないと感じた。 しかしながら、交通量が比較的少ない片側一車線の道路では、対向車がいなければ停車車両の回避はさほど難しくなく、自動運転にこだわった実証実験を実施してもよいのではないかと感じた。
データ蓄積と事故
日本国内では、2023年4月に自動運転レベル4が解禁され、巡回バスなど限定地域やエリア内で運行され始めた。国が策定した「官民ITS構想・ロードマップ」では、2025年をめどに遠隔監視のみの自動運転サービスを数カ所で開始する目標を掲げている。 自動運転バスの実証実験を実施する前提として、人命が担保されることは最優先されるべきだ。しかしながら、万が一事故が起こっても、再発防止のためのデータ蓄積と考えて、ある程度の割り切りも必要ではないだろうか。 将来的にバスドライバーが不足していく社会課題の解決策として注目されているのが自動運転バスの普及である。実証実験におけるチャレンジングな姿勢なくして、自動運転バスの実現は難しいのではないかと痛感した。 次回で実証実験に参加する機会があるとしたら、より実用化が進んだ自動運転走行を体験できることを期待するが、自動運転バスの普及が早く実現できるよう、実証実験を実施する各社にはさらなる研さんを期待したい。
小城建三(自動車アナリスト)