「介護施設で死ぬ人、増えてます」…介護アドバイザーが語る、『死に場所』を選ぶ前に知っておきたい介護施設の”実態”
2015年に厚生労働省が出した統計によれば、日本人が亡くなった場所は病院、自宅の次に、「介護施設」が多くなっている。治療に特化した病院でもなく、住み慣れた自宅でもない「介護施設」で亡くなるとはどういうことなのか。 【漫画】くも膜下出血で倒れた夫を介護しながら高齢義母と同居する50代女性のリアル 介護アドバイザーとして活躍し、介護施設で看・介護部長も務める筆者が、終末期の入居者や家族の実例を交えながら介護施設の舞台裏を語る『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』(髙口光子著)より、介護施設の実態に迫っていこう。 『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』連載第1回
人が死ぬということ
人口動態統計(厚生労働省、2015年)によると、日本国民がどこで亡くなったかを示す主な割合は、病院76.6パーセント、自宅12.7パーセント、介護施設8.6パーセントという結果となっています。 病院で死ぬということは、懸命な治療の結果として亡くなるということ。 自宅で死ぬということは、住み慣れたわが家で家族に囲まれ、家族の一員として亡くなるということ。 それでは、介護施設で死ぬとはどういうことでしょうか。 施設には、徹底した治療を目的とする医療は存在しません。 自宅を離れ、赤の他人と慣れない集団生活を繰り返す。そんなところで亡くなるなんて情けないことだと思う方もいらっしゃるかもしれません。 私が、介護施設で人の死を見届ける大切さを改めてとらえることができたのは、母を亡くしたときでした。
母に手を合わせてくれた、一人の看護師
母は、気づいたときには末期のがんで、繰り返し行われる検査と熱心な治療の中で、いわゆる“手の施しようがない”まま、入院から2ヵ月もたたないうちに、病院で亡くなりました。 死後の処置を済ませて病室を出ていくとき、私は身内を失った気弱さから、「ここの病院のスタッフは、誰も母のことを思い出すこともないのだろうな」と思い、なんとも寂しい気持ちに襲われました。 毎日のように患者が入れ替わる病院では当然のことであり、また、皆さんが母に対して精一杯の手を尽くしてくださったことに感謝の気持ちを抱きながらも、複雑な思いのまま、地下の霊安室で迎えの車を待っていました。 そのとき、私が面会に行くたびに母が話題にしていた仲良しの看護師さんが、勤務の合間に駆けつけ、 「照子(母の名前)さんは、明るくて素敵な方でした。照子さんと話していると、いつも私のほうが励まされたんです。ありがとうございました」 と言い、母の遺体に手を合わせてくれました。 それだけで私は気持ちが落ち着きました。「短い間ではあったけれど、母はひとりの人としてここにいたんだな」と思えたからです。 家族以外の人が、自分の大切な身内をわずかでも人として思ってくれていた。これだけで、最後に何もできなかった“娘”は救われました。 そして改めて、介護施設でひとりの人を最後まで見届けるときに何が大切かを教えられました。