「半導体銘柄」の株価高騰に見る資本主義のバグと新金融革命
去年の今頃だ。私は「AIブームが来る。エヌビディアの株を買え」と某媒体で記事に書いた。未来予測を仕事にしているとたまにこういった大当たりの予言をひくことがある。その後は皆知っているとおり、半導体メーカーのエヌビディア株は世界の株式市場の寵児(ちょうじ)となった。 【写真】兜町にある東京証券取引所 その最新のエヌビディアの決算を眺めていてつくづく感じたことがある。「これは資本主義経済のバグだ」ということだ。どういうことか説明しよう。 ■付加価値はわずか売値の5%!? 直近のエヌビディアの四半期売上は221億ドル、約3.3兆円だ。それに対して純利益は約1.8兆円。計算してみるとわかるが、売上の56%が利益ということになる。 この莫大な売上と利益を稼ぎ出しているのがH100という半導体で、これ一個が500万円もする代物だ。それだけ高額なのに生成AIブームのおかげでこの半導体は作ったそばから売れていく。 では誰が作っているのかというと、エヌビディアは設計と販売をしているだけで、製造は台湾のTSMCという会社が担当している。業界専門家の推定では、TSMCは一個25万円でこのH100を製造してエヌビディアに収めている。 つまり、モノづくりの付加価値なんてエヌビディアに関して言えばわずか25万円というか、売値の5%に過ぎないのだ。ちなみにこの25万円を支えているのが日本の半導体製造装置メーカーで、日経平均を押し上げている東京エレクトロンやアドバンテストといった会社の価値はみな、この25万円のごく一部を構成しているに過ぎない。 H100チップの価格500万円を分解すれば、製造委託費25万円、エヌビディア社内の付加価値が155万円で、アメリカ政府が吸い上げる税金が40万円。そして残りの280万円は純利益として株主が吸い上げていることになる。 もちろん、エヌビディアのエンジニアは新卒でも年収数千万円と日本人から見れば驚くような高い報酬を受けている。エヌビディアのCEOの給料は2500万ドル、つまり約38億円だ。ハイスペックで高給取りの世界一優れたビジネスパーソンたちの取り分はというと、500万円のチップで見れば、社内付加価値の155万円のうちのさらに一部に過ぎない。 つまりエヌビディアという巨大な「金儲けマシン」が500万円のお金を顧客から吸い上げるたびに、その半分以上である280万円は従業員でも委託生産先でもなく株主が吸い上げているのだ。 ではその株主とは誰かというと、それが私だったり、昨年の私の記事を読んでエヌビディア株を買った日本人読者だったりするわけだ。エヌビディアの株は今だって12万円で買えるし、去年だったら5万円もしなかった。誰でも買えたし、今でも誰でも買えるのだ。これが「資本主義のバグ」という意味である。 ■「金融革命」が起きても残る搾取の構造 この現象を人類史から俯瞰してみよう。 文明が発祥して以来の人類の歴史は搾取の歴史だ。昔はわれわれの先祖の大半は農業従事者で、労働して育てた穀物の半分近くが王や貴族や神官たちに吸い上げられた。 産業革命以降もこの構造は維持されて、労働者が稼ぐ金は資本家に吸い上げられていく。 「資本家はリスクをとって最初に資本を提供するから、労働が生む価値を搾取する当然の権利があるのだ」 そんな具合に、この搾取は正当化されてきた。