なぜ阪神の近本は“ミスター長嶋”超えを果たせたのか?
掛布氏は明らかにポイントの位置が変化したという。 「近本の良さはバットを強く振れること、積極性、そして外角のボールへの対応力の素晴らしさです。この球宴を境にポイントが、少しだけ前になり、そこで手首を返してヘッドを利かせる感覚を覚えたのでしょう。どんどん体の近くでボールを捉えることができるようになってきた。9月に入ってからは、そこまでポイントの位置は前にはありません。これまではファウルを打たされカウントを整えられ難しいボールを打たされていたが、今は難しいボールはファウルにして狙い球を仕留めるというパターンに変わりつつあります。プロ野球の世界は、イタチごっこですから。配球も含め優位に立つ方が結果を出すのです」 近本の特徴は早仕掛けだ。 154安打中、最多の25安打が初球。次いで20安打がカウント1-1。カウント1-0が14安打、0-1が12安打で、2-0、0-2を合わせても、実にヒットの55%が3球以内に仕留めたもの。ノートへのメモが日課という近本は、配球、癖を調べ抜き、積極打法の根拠としているのかもしれない。また長嶋氏のルーキーイヤーと共通するのが併殺数の少なさだ。近本は「1」で、長嶋氏も「3」だった。 一方、逆に「ボール3」までいった打数は562打数中64打数しかない。そのため四死球数は36個と少ない。セの30傑にも入らない数だ。154安打もしながら打率が.274なのは、それが主な理由。長嶋氏が153安打を打った、そのルーキーイヤーの打率は.305だった。 「打率を伸ばすためには四球を選ぶことですが、そうなると、彼の積極性という良さを殺すことにもなります。まずは長所をどんどん伸ばすことでしょう。来年は200安打を目標に掲げるくらいのつもりでトライしていただきたい」 掛布氏は、そうエールを送った。 チームへの貢献度を考えると、四死球で出塁を増やし、盗塁争いでトップに立つ「34」の数字をさらに伸ばすことも大事だが、近本は、追い込まれたカウントでは、打率は1割台。ボールを見れば見るほどヒットの確率が下がるのだ。そのあたりに来季への課題が浮かぶ。 さて長嶋氏の記録を更新した次に気になるのは、「33」と1個差で追ってくるヤクルトの山田との盗塁王争いと、新人王の行方である。新人王争いのライバル、ヤクルトの村上は、清原和博氏が作った31本の10代選手の最多本塁打を更新、打点も100に迫る勢いでインパクトは強い。 掛布氏は「素晴らしい記録です。心からおめでとうと言いたいし、新人王はぜひ近本君に取ってもらいたいのです。ただ、新人王は記者投票でしょう? 東西の投票資格を持った人数の差が影響しなければいいのですが」と懸念を抱く。 新人王は、記者投票のため、近本が盗塁王を獲得してもインパクトの差に加え、東西の記者数の差も影響してヤクルトの村上を支持する声が多くなるのかもしれない。ハイレベルな新人王争いの年に入団したことは、近本にとって、ある意味不幸だったのかもしれないが、打ち立てた金字塔が色褪せることはないだろう。