プロレスブームは本物か?
そして13年1月31日、トレーディングカードゲームの開発・販売を手掛ける株式会社ブシロードがユークスから新日本の株式を100パーセント取得。ブシロードの木谷高明社長がまず手掛けたのは世間への発信だ。「それを見て、写メを撮ってツイッターにあげてくれれば、それも世間に伝えるひとつの在り方」として、JRや東京メトロで大々的な広告戦略を展開。自社のカードゲームのCMにオカダ、棚橋、中邑、真壁刀義などの選手を起用した。 「近い将来、もっと盛り上がっているだろうというものを人は欲しがる」が木谷社長の持論で、宣伝広告に力を入れたのは「流行らせるために”流行っている感”を出す」という戦略。これが見事に当たった。そして新日本の年商はブシロードが買収した当時は11億円だったが、2年間で23億円に。地上波のテレビは深夜枠だが、その他にBS、CS、ペイバービュー、ネットなどを駆使して映像を発信。低価格で新日本の主要大会及び45年分の試合映像を配信するサービスの加入者は2万人を突破した。今や新日本の後楽園ホールのチケットは入手困難なほど人気を博し、その熱は地方にも確実に波及しているのだ。 さて、今もっとも話題になっているのは女性ファン…「プ女子」の急増だ。実は昔も女性ファンはいた。ジャンボ鶴田、藤波辰爾が売り出した時代にも女性ファンが急増したし、テリー・ファンクは親衛隊が出来るほどのアイドル人気を誇った。今現在、女子ファンが増えているのはプロレスに対する世間の意識が変わってきたことも大きいだろう。 かつてのプロレスには殺伐とした怖いイメージがあったが、総合格闘技ブームに押されていた暗黒時代を経て、勝敗がすべての総合格闘技にはない見せる要素を持ったエンターテインメントとして成熟した。そして前述の新日本のメディア戦略のように業界全体がファン層を広げる企業努力を重ねたことで女性が足を運びやすい環境になった。今では選手がツイッターやフェイスブックで自ら発信するのも当たり前。もはやリングでいい試合を提供していればいいという時代ではないのだ。 「プ女子」なるものを世間に発信したのはもちろん新日本。またエンターテイメント色が強い団体としてここ数年躍進を続けるDDTは、女性ファン限定のイケメンだけを集めた『BOYZ』という興行を開催したり、レディースシートを設けるなど、早くから女性ファン獲得に力を入れてきた。シェイプアップされたイケメンたちがスピーディーな試合を繰り広げる闘龍門は「プ女子」という言葉が生まれる以前からずっと女性ファンに絶大な支持を受けてきている。 さて、今後のブームの行方だが…今現在の状況は、やはり新日本の独り勝ちと言わざるを得ない。新日本の人気が業界全体の底上げにつながるのが理想だが、他団体との格差が拡大してしまうことだって考えられる。今の「ブーム感」が「本当のブーム」になっていくには、新日本と並ぶ老舗の全日本プロレス、プロレスリング・ノアの巻き返しがカギを握っている。両団体とも、今の新日本と比較するとトラディショナルなプロレスを展開しているが、そうしたスタイルが継承されていくことも日本のプロレス文化にとって大切なことなのだ。老舗が柱となって中央でしっかりと構えていることによって、他の新興団体の様々なスタイルのプロレスもより光るのである。 今後への期待は世界戦略。新日本は1・4東京ドームのペイバービュー放送をアメリカ、カナダでやったし、アメリカのケーブルTVで番組も開始している。日本の様々なカルチャーがネットによって世界中で火がついているように、日本のプロレスが国境を超えたグローバルなムーブメントになれば、それこそ真のブームと言えよう。 (文責・小佐野景浩/プロレスライター)