齋藤彰俊がリングを去る決意と三沢光晴からの手紙「死んでお詫びをするしかないと考えていた」
そして最後の闘いへ
【6・そして最後の闘いへ…】 あれから15年の月日が経った。所属する団体・ノアも一時は深刻な経営危機に陥ったが、若手選手の台頭やサイバーエージェント社の連結子会社となったこともあり、ここに来て再び活況を呈している。そして齋藤の心にも、ある変化が生じた。 「三沢さんからの手紙は何度も何度も読み返しました。だけど、年々、感じ方も変わってくるんですよね。たとえば手紙の中では《俺とのことを糧にしてほしい》とも書かれていました。でも糧って何かと考えると、“自分のプラスにしてほしい”という解釈もできるし、“苦しんで答えを見つけることが修業となり、ひいてはそれが生きるうえでの糧になる”という捉え方もできる。そういう意味では、十分にやりきったのかなという気持ちが強くなっていったんです」 今年7月17日に行われた日本武道館での試合直後、潮崎豪に敗れた齋藤は会場のマイクで引退を告げる。 「あの天におられる偉大な方の足元には及ばないが、2009年6月13日、あの広島の地で心に誓ったこと、約束したこと……。15年という長い時はかかったけど、俺なりに今日果たせたのかなと思う。だから引退を決意した! 潮崎! チームノアを、プロレスリング・ノアを、プロレスを、よろしく頼む!」 11月17日、愛知県名古屋市・ドルフィンズアリーナでの「齋藤彰俊引退記念大会 Deathtiny」が行われる。齋藤は「彼の背中に三沢さんを感じる」として、対戦相手に丸藤正道を指名。集大成となるファイトが展開されるのは間違いない。 「特にプロレスを長く見てきた人は、“プロレスってこういうものだよね”ってなんとなくわかった気になっていることも多いと思う。でも、違うんですよ。本当にプロレスって何が起こるかわからないし、人生そのものが現れるんです。それを自分は試合で伝えたいんですね。自分は本当に不器用な選手だったと思うし、それで損をしてきた部分もあるのかもだけど、自分の生き方に嘘だけはつきたくない。11月17日は自分の生き様をすべてさらけ出すつもりです」 大会の様子はABEMAでも生中継されるとのこと。全プロレスファン必見の試合となりそうだ。(文中敬称略)
小野田 衛