幼い頃、実は神戸に住んでいた 洋画家「東郷青児」の画業一望する特別展 神戸市立小磯記念美術館
やわらかな線と色、独特のデフォルメに叙情性をたたえた女性像で知られる洋画家・東郷青児の画業を一望する特別展「東郷青児 美の変奏曲(ヴァリエーション)」が神戸市立小磯記念美術館(神戸市東灘区)で開かれている。東郷作品のコレクションで知られるSOMPO美術館(東京都新宿区)所蔵品から、代表作を含む約70点を紹介。画家の生涯を通じての美意識と表現の“変奏”をたどる。12月15日(日)まで。 【写真】憂いを帯びた甘美な横顔を見せる少女 東郷青児の代表作『望郷』 1897(明治30)年、鹿児島に生まれた東郷は、5歳時に一家で東京に移るまでの間、1年半ほど神戸に住んでいた。また1930年代には鯉川筋(神戸市中央区)の画廊で3回ほど個展を開催(あるいは企画)。当時の地元紙「神戸又新(ゆうしん)日報」は、展覧会を紹介する記事の中で、東郷を「我が国洋画壇におけるもっともシツク(シック)な存在」と評した。 展示は6章で構成されている。 前半には、日本における前衛表現の先駆けとなった記念碑的な作品『パラソルさせる女』(1916年)、かつて画家自身が「全作品を通じて一番好き」と挙げた『窓』(1929年)などのほか、洒脱(しゃだつ)な衣装を身にまとった女性画『微風』(1937年)、『舞』(1938年)、『紫』(1939年)が集まる、優雅な雰囲気のコーナーも。その後は終戦後に描かれた労働をテーマに入れた作品群で、主題と表現の変遷を見て取れる。東郷は戦後いち早く二科会を再建、長きにわたって同会をけん引した。 代表作『望郷』(1959年)の少女も、頭にスカーフを巻いた労働者風。憂いを帯びた横顔、背景の古代ギリシャ神殿のような建物が、少女が抱える深い事情を想像させる。「日本国際美術展」において、一般投票で決まる大衆賞に選ばれた作品で、高度経済成長期という時代、多くの人の心を揺さぶったのであろう甘いノスタルジーが色濃く漂う。 油彩画のほかに素描や彫刻作品なども展示。また、デザイナーとして手掛けた洋菓子店の包装紙、クッキーの箱なども見どころだ。展覧会を企画した多田羅珠希学芸員は「昭和の時代、人々の心を捉え続けた東郷の女性像の変遷を、ひとときたどっていただけたら」と話している。会期中、同館では「小磯良平作品選2」も開催。
ラジオ関西