56歳前後に要注意!実は男性にもある「更年期障害」症状と起こる仕組み、おすすめの漢方薬は?
最近では、女性だけではなく男性にも更年期があり、女性同様に更年期症状が起こることもあることが少しずつ知られるようになってきました。男性の更年期の症状にも対処法があり、その一つが漢方薬の使用です。今回は、そもそも男性更年期障害とはどういうものか、また、その不調を楽にする漢方薬について紹介します。 〈写真〉56歳前後に要注意!実は男性にもある「更年期障害」症状と起こる仕組み、おすすめの漢方薬は? ■男性更年期は56歳前後に要注意!? 症状と起こる仕組み 男性の更年期障害の症状は、男性ホルモン(テストステロン)の低下によって起こります。脳から精巣にテストステロンを分泌するように指令が送られ、その結果、精巣からテストステロンが分泌されます。しかし、加齢や強いストレスによって脳からの指令が出にくくなると、テストステロンは低下していきます。テストステロンが低下すると、自律神経が乱れやすくなります。すると、ホットフラッシュと呼ばれるような、急な発汗、ほてりが起こったり、不眠、動悸、息切れ、抑うつ、イライラなど、女性と同じような更年期の不調が出てくるのです。また、男性の場合、ED(勃起障害)や性欲低下も起こることがあります。 男性ホルモンが低下してくると、内臓脂肪が増えやすくなります。内臓脂肪の蓄積は、いわゆるメタボリックシンドローム(メタボ)になりやすくなるうえ、高血圧や糖尿病、脂質異常症など生活習慣病、脳梗塞、心筋梗塞といった命に関わる病気のリスクを高めます。こうした男性更年期に様々な不調が起こる状態は、「男性更年期障害」や「LOH症候群」と呼ばれます。男性ホルモンは通常、40代以降に年齢とともにゆるやかに減少していきますが、LOH症候群が現れやすい年代は、東洋医学の考え方によると、だいたい56歳前後が目安になるでしょう。東洋医学の教科書とされている中国最古の医学書「黄帝内径(こうていだいけい)」には、女性は7の倍数、男性は8の倍数の年齢のときに節目を迎え、体が変化が現れると書かれているためです。一方で、年代に関わらず、大きなストレスや生活習慣の乱れが続くと、若くてもテストステロンが低下してしまい、男性更年期障害に悩まされることがあります。 女性の場合、更年期はいずれ終わりを迎え、症状も落ち着いていきますが、男性の場合は必ずしも明確な終わりがあるわけではありません。女性の場合もつらい症状を乗り越えるための対処、治療を積極的に取り入れたほうがよいですが、男性はより積極的にケアをしていくことが大切になります。男性更年期障害は、泌尿器科などで治療を受けることができます。治療法としては、男性ホルモンの補充療法などがありますが、女性の治療と同様、漢方薬もよく使用されます。今回は男性更年期障害の不調によく使われる漢方薬を紹介します。 ■漢方薬は症状だけでなく体質にもあったものを使うことが大切 漢方薬とは、2種類以上の生薬(しょうやく)を組み合わせて作った薬のことです。「生薬」は、植物の葉や根、鉱物、貝殻、動物の一部などを蒸したり、乾燥させたりして加工したりして作られます。 漢方薬は体質改善のための薬です。人間が本来持っている自然治癒力を高め、体調を整えていく効果が期待できます。また、漢方薬は、その人の症状だけでなく、体質にあったものを使うことが大切です。その体質をわかりやすく表現したのが「証」です。簡単に説明すると、体力があり、体格もがっしりしていて活動的な人を「実証」、体力がなく、寒がりでか細く、静的な人を「虚証」、どちらでもない状態の人を「中間証」としています。 同じ症状であったとしても、その人の体質によって漢方薬は合う合わないが分かれます。自分の体質を知って、体質に合ったものを選ぶことが大切です。 ■男性更年期障害の不調には老化を抑えて若々しく保つ漢方がよく使われる では、男性更年期障害の不調によく使われる漢方について紹介していきましょう。男性更年期にはよく「補腎剤(ほじんざい)」と呼ばれる、五臓六腑の「腎」、つまり泌尿器・生殖器・腎臓などの働きの低下を改善するための漢方がよく使われます。いわば、老化を抑えて若々しく保つ漢方です。代表的な漢方を3つ紹介しましょう。 ■■①補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 虚証の人向けで、胃腸の働きを助けて気を養います。筋力が少なく、疲れやすい、なかなか疲れが取れない人に向いています。急な発汗やむくみ、皮膚のトラブル、性機能の低下などのほか、男性更年期障害の不調の緩和にも使われます。 ■■②八味地黄丸(はちみじおうがん) 虚証から中間症の人によく処方されます。生命力の源である腎を補う補腎剤の1つです。手足が冷えやすかったりむくんだりしやすい人に向いており、老化予防、頻尿、生殖器や腎機能の低下、男性更年期障害などに使われます。 ■■③牛車腎気丸で(ごしゃじんきがん) 虚証の人向けで、八味地黄丸と似た効能があります。むくみやしびれがある人に使われます。これも泌尿器、生殖器など、腎の機能を改善するほか、男性更年期障害などにも使われます。 ほかにも、抑うつ傾向のある場合、虚証の人には香蘇散(こうそさん)、実証の人には大柴胡湯(だいさいことう)などが使われます。また、冷えのぼせや頭痛、不安感やイライラが止まらない場合、虚証の人には桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)、実証の人には柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)が使われることがあります。 ■周りの人も男性更年期障害について理解を深めることが大切 実はテストステロンは、生活習慣を変えたり、日頃の生活の少しの工夫で増える可能性のあるホルモンです。適度な運動や栄養バランスのとれた食事、十分な睡眠といった基本的な生活習慣を整えたり、気の合う仲間との時間を楽しんだり、趣味など自分が楽しいと感じられることを見つけていくことに、テストステロンを増やす作用があるとされています。また、男性の更年期障害については、まだ情報や周りの理解が不足している現状があります。本人は不調を感じていても、見た目ではわからないので、「さぼってるのかな」「やる気がないんじゃないか」「本人の性格の問題」などと思われがちです。さらに、男性は子どものころから「男の子なんだから弱音を吐くんじゃない」といったことを言われて育った人も多く、周りの人に相談しづらかったり、相談できる相手も限られているという現状があります。 一方で、男性更年期障害だと思っていたらうつ病だった、というように、他の病気との見分けが難しい場合もあります。男性本人が男性更年期障害について知り、自分のできる方法で対処してみるだけではなく、家族をはじめとした周りの人も一緒に理解を深め、対応できるようにしていきたいですね。 ライター/永田京子 株式会社ウェルネスシアター代表、ちぇぶら更年期トータルケアインストラクター 1,000名を超える女性たちの調査や医師の協力を経て “更年期対策メソッド”を研究・開発・普及。口コミで広まり、企業や医療機関など国内や海外で講演を行い述べ6万人以上が受講。2018年カナダで開催の国際更年期学会で発表。
永田京子