「お金」で課題は解決できない…自由に生きるために大切なのは、「お金の増やし方」の対極の考え方だった
<「読者が選ぶビジネス書グランプリ」総合グランプリ『きみのお金は誰のため』著者の田内学さんにインタビュー>
今年で9回目を迎える「読者が選ぶビジネス書グランプリ」。2024年は『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社、以下「本書」)が総合グランプリとリベラルアーツ部門賞に選ばれました。 ●日本だけ給料が上がらない謎…その原因をはっきり示す4つのグラフ 2022年4月に高校での「金融教育」が義務化され、今年から新NISAが始まるなど国民的にも投資熱が高まっています。そのようななかで「お金自体には価値がない」と強烈なメッセージを発信したのはなぜでしょうか。受賞を記念して、著者の田内学さんにお話をうかがいました。 ※グロービス経営大学院の教員である江上広行さんから田内さんへのインタビューを再構成しています。(※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です) ■社会の仕組みをわかりやすく説明したい ──「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」、総合グランプリとリベラルアーツ部門賞のダブル受賞おめでとうございます! まずは感想をお聞かせください。 多くの人に読んでもらいたいと思って書いたので嬉しいです。なにより、読んでから「周りに勧めたい」という方がすごく多くて。それもあって(本書の)評判が広がったのかなと思います。 元々「中高生くらいでも読める本にしたい」というのはありました。でも親世代にもこういう視点をもってもらいたいと思っていたので、実は親世代向けの本でもあるんですよ。 ──本書を若い世代に向けて書かれたのは、なにか思いがあってのことでしょうか。 経済の話って、難しく正しそうに話すことが多いんです。金融機関で働いていた経験から思うのは、小難しい説明をするけど、実はなにも説明できていないことが非常に多い。 経済や財政政策についてあまり難しい説明ばかりだと、みんな理解することをあきらめて、 “正しそうなこと” を言っている人を信じてしまうんです。でも、本来経済って自分たちの身近なことですよね。 経済の話に限らないのですが、日本では、「社会」というものが「誰かによって与えられるもの」だと思われがちです。実際に国際比較すると、社会に対する責任を感じている若者の数が他の国より少ないんですよ。これは、若者に限ったことではないと思いますが。僕はそこがすごく問題だと思っています。 でも実際は社会って「誰かによってあたえられるもの」ではなくて、一人ひとりの集合ですから、多くの人が当事者意識をもつためにも、わかりやすく社会の仕組みを説明したいという思いがありました。 本を通して一番伝えたいのは、自分たちは「社会の一員」であるということです。大人になってしまうと「そうは言ってもお金じゃん」となってしまうので、子どものときに「社会の一員だよね」ということを感じてもらえるような教育が必要だと思っています。 ──本書は小説形式を取られていますが、その理由についてお聞かせください。 前回の本(『お金のむこうに人がいる』)を書く前に編集者の佐渡島庸平さんに相談したら、「内容が正しければ、安倍さん(当時の首相)にも伝わるよ」と言われたんです。 それで書いたら、本当に安倍派の財政問題の勉強会に呼ばれたんですよ。勉強会に出席して感じたのは、政治家はなにが正しいかよりも、どれが国民の支持を得られるかを気にしているということ。一人ひとりの意識が変わっていかないと、日本はちゃんとした方向に向かないのかなと思いました。 前の本は経済に興味ある人は手に取ると思いますが、その外側にいる人たちには届きません。一人ひとりに訴えかけるためには、感情移入して読みやすい小説形式がいいのではと思いました。