櫻坂46 藤吉夏鈴が放つ、唯一無二な“ミステリアスさ”の正体 我々を魅了する表情の豊かさ
テアトル新宿で行われた『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』の公開記念舞台挨拶で、登壇者の一人が藤吉夏鈴を「独特な雰囲気」と表現していた。「独特」とは、いいようにも悪いようにも捉えられるなんとも曖昧な言葉だが、その独特を言語化しようとすると、確かに一言では難しい。会話のテンポ感やミステリアスな空気――それは櫻坂46としての藤吉にも、今回俳優として映画初出演にして初主演を務めた藤吉にも言えることだろう。その独特の正体が、藤吉の魅力に繋がっているのではないかと思えるのだ。 【写真】藤吉夏鈴が映る場面カット一覧 筆者が俳優の藤吉に出会ったのは、今年1月に放送されていた『作りたい女と食べたい女』シーズン2(NHK総合/以下『つくたべ』)。会食恐怖症を抱えた南雲(藤吉夏鈴)は、野本(比嘉愛未)や春日(西野恵未)、矢子(ともさかりえ)たちと出会うことで、今の自分を受け入れていくのと同時に、春日の恋愛相談に乗ったり、矢子と外に出かけて行ったりと、ナチュラルなタメ口がアクセントの人懐っこい人物だった。『つくたべ』が同性愛を扱う作品ということで、藤吉がセンターを務めた櫻坂46 「偶然の答え」MV冒頭の劇中ドラマを彷彿とさせるところもあり、そういったリンクが起用に働いているのではないかと当初は少し穿った見方をしてしまっていた。しかし終わってみると、シャイな性格と愛らしさの2つの要素を藤吉は自然と演技の中に作り出しており、比嘉愛未たちキャスト陣が櫻坂46のコンサートに来ていたことは藤吉が『つくたべ』チームの一人として受け入れられていた証拠だろう。 それ以前には芝居に目覚めるきっかけとなった『あざとくて何が悪いの?』(テレビ朝日系)の『あざと連ドラ』があり、『アオハライド』(WOWOW)シーズン1・2と『つくたべ』、そして今回の『新米記者トロッ子』がある(ほかにも、CMではマクドナルドの「サムライマック」「道を切り拓け」編がある)。『アオハライド』シーズン2、『つくたべ』、『新米記者トロッ子』は全て2023年の撮影だったようだが、映画の現場、何よりも主演という立場から、俳優としての新境地であり、真価が問われる局面でもあるだろう。 筆者が『新米記者トロッ子』を観て心を掴まれたのは、小林啓一監督が描く青春群像劇(一方で社会派としての切り口もある)としての物語性もそうだが、藤吉の演じる所結衣(トロッ子)が様々な人との出会いの中で憧れ、時に失望し、それでも諦めずに真実に向かって走り抜けていく閃光のような煌めき。藤吉は多くのインタビューで小林監督から「目」の演技を指導されたことを話しているが、新聞部の部長・杉原かさね(髙石あかり)をはじめ、文芸部の部長・西園寺茉莉(久間田琳加)と出会い目を輝かせていく。上映時間98分の中でトロッ子だけでなく、表情豊かになっていく藤吉自身の成長をも見ているようだ。 クライマックスとなる演説シーンには、かさねの魂を受け継いだ新聞部としてのジャーナリズムが強く表れている。学園の理事長・沼原(髙嶋政宏)を睨み付ける眼光の鋭さ、その一方で好奇心に突き動かされる衝動と自分の芯を持ったどこまでも真っ直ぐな純真さが、トロッ子にはある。 「いまはとにかくお芝居をやりたい」「グループの外に出て、また戻ってきたときに、グループにいい影響を生み出せるようになりたい」とインタビューで語っている藤吉。(※)彼女が初めてセンターを務めた「なぜ 恋をして来なかったんだろう?」は、本記事公開時点(8月19日)で櫻坂46として最も再生回数の多いMVとなっており、その理由の一つとしてこれまでにない藤吉の満面の笑みがBuddies(櫻坂46のファンの呼称)を惹きつけたことにある。今「Start over!」MVには『新米記者トロッ子』パンフレットにあるQRコード(劇中でお馴染み)から飛んできた映画鑑賞者からのコメントが多く寄せられており、中には初めて櫻坂46としての藤吉に触れ、そのギャップに驚いたという声も見受けられる。作品ごとに生まれるまだ見ぬ表情。それが藤吉から感じる独特の正体であり、代替えできない唯一無二の個性だ。 ■参照 ※ https://realsound.jp/movie/2024/08/post-1750378.html
渡辺彰浩