しげるは「いやいやえん」を改革せねばならない
『いやいやえん』は、ちゅーりっぷほいくえんに通う保育園児しげるを主人公とした7つの短編で構成されている。「ちゅーりっぷほいくえん」「くじらとり」「ちこちゃん」「やまのこぐちゃん」「おおかみ」「山のぼり」「いやいやえん」――全体にお話は、現実とファンタジーの間をゆったりとハンモックのように揺れ動いて展開する。 最初の「ちゅーりっぷほいくえん」は、舞台となるちゅーりっぷほいくえんの説明と、しげるがどんな子かという紹介。続く「くじらとり」は、子どもたちが積み木で作った船に乗って鯨を捕りにいくという話。「ちこちゃん」は、同じ保育園児の女の子、ちこちゃんをしげるがまねするという話。「やまのこぐちゃん」では、くまの子どもがちゅーりっぷほいくえんにやってくる――いやもう、完全に忘れていた。表紙のくまの子は「いやいやえん」に登場するとばかり思い込んでいたが、「やまのこぐちゃん」に登場するのだった。 そんな、幼児の主観、というか「幼児に世界がどのように見えているのか」に寄り添うような話の最後に置かれるのが「いやいやえん」なのである。 なぜ、書名にもなったお話が、本の最後にあるのか。それは、読めばすぐに分かる。「いやいやえん」というお話は「いやいやえん」という本の中で、突出して異質で、それまでの6つのお話とは全く異なる、硬質の読後感を残すからなのだ。 ●「なきたけりゃおなき」のいやいやえん 「いやいやえん」のお話は、しげるが朝、いやがっているところから始まる。昨晩おとうさんの買ってきたおもちゃの自動車がいやなのだ。なぜなら赤色の自動車だったから。赤色なんて女の子の色だ。自分は黒い自動車がいい。 しげるのいやいやはエスカレートする。保育園に行くのいや、お弁当を持っていくのがいやと泣き出す。「いつまでもないてらっしゃい」とお母さんがいうと、「なくのなんていやだい」と言い返す。 そんなしげるを見て、ちゅーりっぷほいくえんの先生は、おかあさんに保育園ならぬ「いやいやえん」を紹介する。いやいやえんに放り込まれてしまうしげる。 いやいやえんは、一見保育園風の施設。先生はおばあさんひとりで、子どもはいっぱい。ここではなにも強制されない。おばあさん先生は「なきたけりゃおなき。けんかしたけりゃけんかをするし、ゆびをなめたけりゃ、なめてもいいんだよ」と言う。あれをしたい子、これをしたい子であつれきが起きるが、おばあさん先生は一切関知しない。 午前10時、おもちゃを片付ける時間になっても、子どもたちはかたづけたくないといやいやをする。するとおもちゃたちが、「こんなところにはいられない」と動き出し、みんな逃げてしまう。 10時のおやつはしげるの好物のりんご。でもしげるにりんごは出てこない。赤いものがいやだといったからだ。しげるがけんかをしてもおばあさん先生はしらんぷり。けんかで生傷だらけになったしげるに、おばあさん先生が赤チン(なんと懐かしい!。若い方のために説明すると、赤チンという、大変ポピュラーだった赤色の外傷消毒薬がかつてあったのです。水銀を使っていたので、現在は生産されていません)を塗り、しげるの体のあちこちが赤くなる。 お昼になっても、しげるのまえにはご飯がでてこない。朝、「お弁当を持っていくのはいや」と言ってしまって、持ってこなかったからだ。おなかぺこぺこで、お母さんが迎えに来るのを待つしげる――。