『私生活』ブリジット・バルドーの肖像、異例の伝記映画
ヌーヴェルヴァーグの一員
ルイ・マルの『私生活』とジャン=リュック・ゴダールの『軽蔑』は、セレブリティとなったブリジット・バルドーへの解釈と解体を試みた作品といえる。アンリ=ジョルジュ・クルーゾーの『真実』(60)で、ついに俳優としての評価を得たブリジット・バルドーは、彼女自身を実験台としてヌーヴェルヴァーグの作家たちに委ねる。ルイ・マルやゴダールとの間に問題が起きなかったわけではないが、それでも常にプロデューサーから彼らを守っていたことが伝えられている。なにより「ヌーヴェルヴァーグの一員よ!」というブリジット・バルドーの言葉には、自分への期待に溢れている。 ルイ・マルにとっても興行的な失敗に終わった『地下鉄のザジ』(60)の借りを返さなければならない状況があった。しかし『私生活』は『地下鉄のザジ』以上に無視され、ルイ・マルはドキュメンタリー映画の制作によって自分を取り戻そうとする。現在の視点で振り返ったとき、『私生活』が『地下鉄のザジ』とドキュメンタリー映画の間にある作品という点はとても興味深い。『私生活』のバレエシーンやスクリーンを前にしたアフレコのシーン、街並みやネオンの灯りは、大傑作『地下鉄のザジ』にあった実験性の延長線上にある。恋人のファビオ(マルチェロ・マストロヤンニ)の元へ向かう路地や住宅街の風景にはドキュメンタリー性がある。ブリジット・バルドーの架空の伝記映画というテーマと、ファンタジー性とドキュメンタリー性の美学的な折衷こそが『私生活』という作品をより豊かにしている。 ブリジット・バルドーとマルチェロ・マストロヤンニは撮影中に口も利かないほど不仲だったというが、スクリーン上における二人の相性はかなり良いように思える。『甘い生活』(60)で大きな成功を収めた後のマルチェロ・マストロヤンニにとって、本作の明らかな脇役は不本意だったと伝えられている。しかマルチェロ・マストロヤンニは自分の仕事をきっちりこなしているように見える。マルチェロ・マストロヤンニには、なにより無二ともいえる大人の色気がある。