一体チェルシーはどこへ向かうのか。ポチェッティーノは「時代遅れ」。衝撃の退任に至った真実とは【コラム】
衝撃が走った。チェルシーは現地時間21日、マウリシオ・ポチェッティーノ監督との契約を双方合意の上で解除したと発表した。まだ就任1年目、とくに後半戦は好調だっただけに、このフロントの決断に疑問の声を挙げる人も少なくない。なぜ、チェルシーとアルゼンチン人監督の歩みは、このような形で終わってしまったのか。(文:内藤秀明)
●衝撃のポチェッティーノ退任 寝耳に水とはこのことだ。現地時間5月21日、チェルシーはマウリシオ・ポチェッティーノ監督と双方合意の上での契約解除、つまり退任を発表した。 確かに今季のチェルシーは、出だし不調だった。夏の移籍市場で主力選手の入れ替えが多く、スタメンや戦術が定まらないこともあり、スタートダッシュに失敗。シーズン折り返しの19節時点では7勝4分8敗で11位という成績だった。しかしシーズン終盤に復調すると、31節以降は6勝2分の無敗で乗り切り、最終的には6位まで順位を上げてシーズンを締め括った。この順位は褒められた結果ではないものの、前提として変革期であること、またその結果としてスカッドがアンバランスであることを考えると十分な内容ではあった。 筆者が複数のチェルシーファンを取材する限り、彼らとしても「もう1年は見守ってもいいか」となっていたところでの退任だった。一部のチェルシーファンはこの展開を予想していたらしいが、大半のサッカーファンにとっては衝撃のニュースだったろう。米メディア『ジ・アスレチック』のリアム・トゥーミー記者は「このニュースはチェルシーのサポーターを分裂させそうだ」と自身のコラムで綴ったが、今後の監督人事次第では、ファンの意見は割れそうである。 では何故、このような結果になったのか。今後、チェルシーはどこに向かっていくのか。 ●なぜポチェッティーノは監督の座から降りたのか 英メディア『ガーディアン』によると、そもそもアルゼンチン人指揮官とチェルシーの間に、戦略をめぐる意見の相違があったことが、今回の決裂の原因だと見られている。 昨夏に2年契約で雇われたポチェッティーノは、移籍の面でより大きな権限を欲していたが、それを手に入れることが難しいと判断し、退任を決断した。 確かにポチェッティーノ側の要求もわからなくない。昨夏はフロント主導で主力が大きく入れ替わった。1000万ユーロ(約14億円)以上のディールで言うと、11人を購入して、7人を売却している。これだけの入れ替わりは異常事態である。 しかも25歳以下の若手の補強という制限を設けることで、試合をコントロールするベテランの役割をチアゴ・シウバに依存する結果になった。そして彼をコンスタントに出場させるために39歳の元ブラジル代表DFに負荷をかけない戦術を使わざるを得なかった。 せめて各ポジションに本職の選手がいれば、もう少し楽だったのだが、コストパフォーマンスの観点で2列目ばかり買い漁り、ストライカーが不在だったこともまた、監督の頭を悩ませた。加えて主将のリース・ジェームズ含めて、怪我人にも悩まされたことも追記しておきたい。 振り返ると、こんな異常なシーズンを6位で乗り切ったことは十分成功とも思えるが、一部の上層部、特に共同オーナーのベフダド・エグバリ氏はポチェッティーノの手腕に懐疑的だったようだ。ちなみに今回の件だと、もう一人の共同オーナーのトッド・ボーリーは当初、ポチェッティーノの続投を望んだと言う報道もある。チェルシーもチェルシーで一枚岩ではないのだ。 一部の取締役からは味方を得ていたものの、英メディア『ガーディアン』によるとチェルシーはポチェッティーノの戦術に懸念を抱いており、ある有力筋は内々に彼のトレーニング方法を「時代遅れ」と評していたようだ。結果、ローレンス・スチュワート、ポール・ウィンスタンリーら共同スポーツダイレクターとエグバリ、そして本人との2日間にわたる話し合いを経て、ポチェッティーノは退任となった。 ●チェルシーの新監督は誰に? 新監督に関して、これまでのチェルシーなら名前のある大物を連れてきそうなものだが、今回は違うらしい。というもの移籍市場に詳しいファブリツィオ・ロマーノ氏によると、チェルシーは、若くて才能のある監督を起用し、彼ら独自の「シャビ・アロンソ・プロジェクト」を立ち上げることを考えているようだ。 筆者の率直な感想としては「そんなに簡単にシャビ・アロンソを複製できるのであれば、苦労しないよ…」と思うものの、チェルシー側は本気でそれを検討しているらしい。 だからこそ打診先の候補としては、キーラン・マッケナ(イプスウィッチ)トーマス・フランク(ブレントフォード)、ミチェル(ジローナ)、マレスカ(レスター)、セバスティアン・ヘーネス(シュトゥットガルト)、ヴァンサン・コンパニ(バーンリー)など若手監督が上がっている。 ただヘーネスは今年既にバイエルン・ミュンヘンからのオファーを断ったことからシュトゥットガルト残留が濃厚で、コンパニは逆にバイエルンへの移籍に大きく傾いているようだ。 現段階では残りの4名が濃厚で、チェルシーの中ではまだ最有力候補はないという報道もあるものの、『ガーディアン』によるとマッケナに関しては数週間前から、ブライトンと奪い合いの交渉をしているようで、最も可能性が高い監督のうちの一人だ。 確かにマッケナは、昨季12月にマンチェスター・ユナイテッドのコーチを退任すると、3部だったイプスウィッチの監督に途中就任して、現実的な戦い方でいきなり2部チャンピオンシップに昇格させた。これだけでもトップチームの監督初経験の指導者としては十分な結果ではあるものの、まだまだ戦力が整わぬクラブを今季再び昇格させて、気がつけば2年連続の昇格でクラブをプレミアリーグに導いた。 しかもそのサッカーは雑にロングボールを放り込む内容ではなく、守備組織を整備し、攻撃でも足りない戦力で緻密なビルドアップを構築していた。確かにチェルシーが次の“シャビ・アロンソ”として目をつけたくなる気持ちはわかる。 最終的に誰を新監督とするかはわかっていないが、『ジ・アスレチック』の記者デイビッド・オーンスタイン氏によると、数週間ではなく、数日で新監督が決定するという。もうある程度、目処は立っているのかもしれない。 以上が今回の突然の退任劇の真相のようだ。最終的に誰が監督になり、チェルシーがどこに向かうのかは現段階では定かではない。ただし一つ確かなのは、チェルシーの変革はまだまだ今季で終わりではない、ということだ。 (文:内藤秀明)
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