「あの日のことは、心をくいで打たれるような拷問でしかない」 部活のノリが「性加害」に、法廷で裁かれた先輩4人
あの日受けた屈辱が今でもフラッシュバックする。心に消えない傷を負わせた行為を、彼らは法廷で「その場のノリ」と表現した。東京地裁で開かれた強制わいせつ罪の公判。被告席に座ったのは、所属していた大学の部活の先輩男性4人だった。(共同通信=助川尭史) 【写真】「まさか…」 重度の障害がある15歳の長女のおむつに、500円玉大の血が付着 驚いて陰部を確認すると… 「犯人は10人未満のうちの誰か」 警察は被害届を一時受理せず 両親は独力で闘い始めた
▽たった一人の「いじられ役」 被害に遭った20代の男性は、大学で体育会系の部活に入部した。同学年に男子部員はおらず、「いじられ役」として一学年上の先輩4人から威圧的に怒鳴られたり、飲酒を強要されたりする嫌がらせを受けていた。 事件が起きたのは、2022年3月、大学2年の時だった。春合宿で訪れた東京都内の宿泊施設で深夜、突然部屋のドアが激しくたたかれた。応対するといきなり先輩たちに、両手足を持ち上げられ談話室まで連れて行かれた。 床にあおむけにされて両手を押さえつけられた。着ていたパーカとパンツをずらされ、胸や陰部に歯磨き粉を塗られて触られた。泣いて抵抗しても、先輩たちは笑いながら写真を撮り続ける。悪夢のような時間は約40分も続いた。 合宿が終わった後、突然涙が出るようになったり、食事をとれなくなった。部活をやめ、大学も休学した。ふさぎ込む日々を送る中、旧ジャニーズ事務所の性加害問題の報道に触れた。「自分が受けたのも性加害だったのかもしれない」。警察に被害を相談した結果、社会人になっていた先輩たちは2024年、強制わいせつ罪で逮捕、起訴された。
▽「その場のノリのじゃれ合いだった」 9月上旬、東京地裁の証言台に被告として立った先輩の一人は「被害者の人生をめちゃくちゃにしてしまった」と消え入りそうな声で悔やんだ。日頃から、部員同士でふざけあうことはよくあったと証言。検察官がやり過ぎとは思わなかったのかと問いただすと「当時は思わなかった。やられた側の気持ちを考えていなかった」とうなだれた。 一方、別の先輩は合宿での行為について、「よく覚えていない」と曖昧な受け答えに終始した。部活については「部員みんな、仲が良く楽しい場所だった」と話し、謝罪の言葉を口にしつつも「その場のノリでじゃれあうことはよくあった。被害者も楽しんでいると思ったし、その場で笑ってる人が実は苦しんでるのだと読み取るのは難しい」と釈明した。 公判の終盤、被害者参加制度を利用した男性は現在の思いを法廷で語った。「あの日のことは、心をくいで打たれるような拷問でしかないです。今でもあなたたちの笑う顔や、当時の金髪姿が夢に出てきます。考えが至らなかったで済む話ではなく、覚えていないとするのは許せません。私は不安と絶望の中にいるのに、あなたたちは普通の生活を送れるのはあまりにも理不尽です。死ぬまで相応の罪を背負ってほしい」。傍聴人から見えないよう設けられたついたての向こうで、男性が発した声は怒りで震えているように聞こえた。