空前の人手不足感で賃金上昇圧力に期待 デフレ脱却なるか 短観3月調査
最も代表的な経済指標の一つである日銀短観が4月3日に発表されました。今回の結果では、短期的な経済変動として(1)日本経済の循環的な回復が続いていることが示されたほか、長期的な経済変動として(2)空前の人手不足感が示されました。本稿では、この2点に絞り解説したと思います。(解説:第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
12月調査からは2ポイント改善 その背景とは?
まず、最も注目度の高い大企業・製造業の業況判断DIは「最近」が+12と市場予想(+14)を下回ったものの、12月調査からは2ポイント改善して製造業企業の収益力回復を強く示唆する結果となりました(短観は3カ月に1度公表)。この背景としては在庫調整の進展、輸出の増加が挙げられます。すなわち、在庫減少に伴う増産、海外経済の好転に伴う輸出の増加が製造業企業の業況改善に寄与したものと思われます。業種別では自動車、はん用機械(原動機、ポンプ等の工業製品・部品)、生産用機械(建機等)、鉄鋼などの改善が顕著でした。これは米中経済の持ち直しと円安の恩恵を強く意識させます。 一方、「先行き」は+11と最近対比でほぼ横ばいの慎重姿勢が示されました。業種別では自動車(最近+18→先行き+9)の下方屈折が目を引きましたが、これは足元で円安の進行が一服しているほか、日米通商交渉に伴う不透明感が背景として考えられます。自動車産業はその裾野が広いこともあって、他産業に与える影響が非常に大きいため、今後の動向に注意が必要です。 他方、大企業・非製造業の業況判断DIは「最近」が+20、「先行き」が+16でした。業種別では、建設、不動産、情報サービスが強さを維持したほか、通信が異例の高水準から軟化しました。一部企業で人手不足と価格改定が話題となった運輸・郵便は「最近」が+12へと4ポイント改善した一方、「先行き」は+6へと6pt低下が見込まれました。このことは人手不足解消と値上げの難しさを浮き彫りにしていますが、後述するとおり、足もとでは人手不足感が一段と強まっているため、今後も労働需給の引き締まりを背景にしたサービス分野における価格上昇と賃金上の構図は今後も続きそうです。