第93回選抜高校野球 感謝忘れず諦めないで 五條高・平田さん、県勢にエール /奈良
<センバツ2021> 病と闘いながら甲子園を目指し、今月、五條高を卒業した平田隆真さん(18)=大淀町=は、第93回選抜高校野球大会(毎日新聞社など主催)を特別な思いで見守る。甲子園を夢見たきっかけの一つが、現地で見た地元・智弁学園の試合だった。「心が折れそうな時も諦めずに頑張れば、乗り越えられる。周囲への感謝を忘れず、目の前のことに全力で挑んで」。県民の期待を背負う智弁学園と天理の選手に、エールを送る。【林みづき】 ◇視力ハンディもプレー 小学4年で野球を始めた平田さんは6年の時、少年野球チームの仲間と初めて甲子園へ。観戦した智弁学園の試合には、現在プロ野球・巨人で活躍する岡本和真選手が出ていた。「聖地」にしかないその独特な雰囲気が新鮮で、高校野球が大好きだった祖父の影響とともに、甲子園を強く意識するようになった。 中学ではクラブチームに所属。周囲との実力差を埋めようと練習に励んでいた矢先、学校での事故が原因で腰椎(ようつい)分離症を患った。症状がひどいと車椅子が欠かせず、痛みで練習どころではなくなった。それでも「うまく付き合っていくしかない」と踏ん張った。 高校進学後も野球への情熱は衰えることがなかった。チームの中堅となった2年春、視力検査で右目に異変を感じる。「そこにあるはずの検査台が、ない……」。初めての感覚だった。自分も周囲も何が起きているのか分からず、動揺した。 いくつもの病院を回り、原因不明のコーツ病(滲出(しんしゅつ)性網膜症)と診断された。特殊な網膜剥離によって視力が失われていく病気だ。「野球をやめるしかないのか」。大きな不安が心を覆った。「もしもボールが当たったら、左目の視力まで失うかもしれない」。葛藤は続いたが、諦めきれず、治療と野球の両立を模索した。 ところが、久しぶりに練習に戻った平田さんを待っていたのは、以前のようにプレーできない自分だった。飛んでくるボールは二つに見え、距離感もつかめない。「もう無理なんちゃうか」。そんな思いがよぎることもあったが、チームメートやクラスメートに支えられ「独りじゃない」と思えた。ひたすら数をこなし、目の感覚に慣れていった。 そして迎えた高校生最後の夏。県独自大会の王寺工戦には、亡き祖父に買ってもらったバットで臨んだ。「おじいちゃん、見ててね」。祈るような気持ちで打席へ。緊張しながら臨んだ初回、ストレートを見逃さず適時三塁打を放った平田さんは先制点を挙げた。チームは勢いに乗り、5―1で勝利、3回戦に駒を進めた。 それは、一生忘れられない瞬間になった。医療関係者をはじめ支えてもらった多くの人、これまでの苦労、いろんな出来事が駆け巡った。皆でバックスクリーンを見て校歌を歌ったときの景色は最高の思い出だ。病気になる前は当たり前だった皆で野球をするということが、とてつもなく幸せに感じられた。今年1月には在校中の活躍が評価され、2020年度県高野連優秀選手にも選ばれた。 「失ったからこそ、見えたものがある」。それは、諦めないことの大切さと感謝の気持ちだ。大学に進学し、将来は「競技者を支える側になりたい」と願う。