東京オリンピックの談合事件 その中心人物は「大人の事情」で追い詰められた 検察幹部が漏らす「彼はババを引いた」の真意
「多くの仕事を課してしまった。多くの職員は、私と同じ思いを持っていると思う」 この言葉を聞いた元次長は被告席で天井を見上げ、視線をさまよわせた。込み上げる感情をこらえようとしているかのようだった。 ▽真の意味での「オリンピックの成功」とは 大会を成功させるか、法を順守するか―。元次長の法廷での発言からは、当時、究極の選択を迫られていたように映った。 取材の中である検察幹部は、元次長をこう評している。 「立場上責任は取らないといけないが、ババを引いた、と彼は思っているんでしょうね。社会は必ずしもフェアにできていない」 7月にあった初公判の最後、裁判長は不意に問いを投げかけた。 「今、五輪を本当に成功させるために何が必要だと思いますか」 元次長は、言いよどんだ。「そこがまだ…こんな答えではいけないかもしれないが、分からない。何ができたら良かったのか…」 裁判長のこの問いを受けてか、検察側は9月の論告求刑公判で、大会に対する失望感と不信感が国民に生まれたと主張した上で非難している。
「真の意味での成功とは到底言いがたい。被告人自身も理解しているはずだ」 判決は12月12日に言い渡される。