東京オリンピックの談合事件 その中心人物は「大人の事情」で追い詰められた 検察幹部が漏らす「彼はババを引いた」の真意
堂々と、しっかりした口調。罪を認めながら、なぜ胸を張って言えるのか。彼が談合に関わった具体的な経緯は公判でつまびらかになった。話は大会の当初の開催予定まで4年となった2016年にさかのぼる。 ▽経験者が少ない「寄せ集め」の中で 2016年秋、元次長は危機感を抱いていた。準備を担う大会組織委員会は、東京都や競技団体、民間企業などからの出向者の「寄せ集め」。スポーツイベントの運営経験者は少なく、テスト大会の準備は一向に進んでいなかった。 「電通を中心とした事務局にテスト大会の業務を委託しよう」 頭に浮かんだのは、スポーツ分野での経験が豊富な電通に“丸投げ”する案だった。だが公式エンブレムが白紙撤回となった問題や労務関係訴訟問題など、電通はその頃、逆風のまっただ中にいた。財務省から出向していた企画財務局長は、こう言って元次長の考えに反対する。「電通からマージンを中抜きされる」 そこで元次長は、各競技で大会運営実績のある事業者にバランス良く割り振る案に切り替えた。「オールジャパン体制で、みんな協力してやりましょう」。電通側も「独占は難しい」と考え、元次長への協力を通じて、利益確保を目指すことになったとされる。
▽「一個一個が世界大会」 各競技で専門性を持つ事業者に発注するのは、大会成功の「最低条件」だ。元次長は初公判でこの点を強調し、自分が決めた方針への自負をにじませた。 東京大会で実施されたのは、史上最多の33競技339種目。「一個一個が世界大会」。元次長は、その困難さを冬山にたとえた。 「対処には経験値が必要。何も起こらない夏山ではなく、なんとかしなければならない冬山だった」 検察側が読み上げた電通や大会組織委員会関係者の供述によると、元次長は2017年、電通に依頼し、競技ごとに大会運営実績のある会社をエクセル表にまとめさせた。事業者を早期に確保すべく、それぞれと特命随意契約を結ぶ想定で動き、電通側と共に割り振りを検討し始めた。 ▽ターニングポイント ただ、そこに大会組織委員会のルールが立ちはだかる。規定では、競争入札が原則だ。 企画財務局長らは2017年10月ごろ、「随意契約にしたい」と元次長から相談を受けた際、「原則通り入札でやらなければならない」と突き返した。最初のテスト大会の開催予定まで1年を切っていた。