東京オリンピックの談合事件 その中心人物は「大人の事情」で追い詰められた 検察幹部が漏らす「彼はババを引いた」の真意
焦る元次長は2017年12月ごろ、電通元幹部と手分けして各事業者と面談し、受注を希望する会場・競技や実績の聞き取りを始めた。大会組織委員会では翌18年1月までにテスト大会の計画立案業務を一般競争入札とする方針が固まったが、元次長らは各事業者との調整を止めなかった。ここが、検察側から談合とみなされるターニングポイントになった。 公判では、調整を続けた理由について質問が相次いだ。元次長はテスト大会を成功させることが根底にあったと述べ、こう繰り返した。「大変なことになる」「無責任に放り出すことはできなかった」 検察側 「何をそんなに恐れていたんですか」 元次長 「とにかく専門性のある業者を、と考えていた。(調整していなかったら)計画が煮詰まらず、大きな混乱が生じたと思う」 ▽「責任を押しつけられたのでは」 上司だった大会組織委員会元幹部の供述によると、2018年3月、受注想定事業者が記載された一覧表を元次長から見せられた。
「業者に見せたら官製談合と疑われるぞ」と注意喚起すると同時に、こう注文を付けた。「電通に偏らないように」 このやりとりには重い意味が含まれている、と元次長の関係者は話す。 「公金を費やしている体裁があるので、入札にはするけど、後はうまくやってね、ということ」。運営がうまく回らない大会組織委員会から「責任を押しつけられたのではないか」と指摘した。 ある大会組織委員会の関係者は、元次長から事業者確保への懸念を直接聞いたことがあるという。夏は元々イベントが多く、事業者に新たに五輪運営にリソースを割いてもらうことが難しいためだ。野球やサッカーといった人気競技はまだしも、それ以外のマイナーな競技も含めて引き受けてくれる事業者は見つけづらいという。 「本大会までのスケジュールを考えると、テスト大会ができないという事態になっちゃいけない。相当プレッシャーだったのだろう」 テスト大会、そして本大会の成功に向けて突っ走り続ける元次長を、同僚たちはどう見ていたのか。証人尋問に出廷した大会組織委員会の別の元幹部は、こう述べている。