欧州全域にテロ拡散 「スペイン奪還」目論むISやアルカイダ
欧州テロへのモロッコ系移民の関わり
前述のように、モロッコを拠点に活動していたGICMがマドリードの列車テロに関わったことは当局の調べでも明らかになっています。また、このテロの主犯格の中にも、複数のモロッコ人が含まれていました。モロッコとスペインはジブラルタル海峡を挟んで目と鼻の先に位置し、アフリカ大陸からの不法移民が毎日数百人規模で押しかけているといわれます。その中で、既にスペインに居所を得ているモロッコ移民は60万人以上といわれています。 フランスやベルギーで発生したテロでも、モロッコ移民の青年が実行犯として関与していましたが、彼らは、先進国での裕福な生活を夢見て欧州にやってきた移民家族の子供たちでした。しかし、新天地では必ずしも思い通りの生活を送れたわけではありません。むしろ、生活習慣や言語の違いから西欧での暮らしになじめず、差別されてまともな職に就くことさえもできない現状があります。こうした厳しい環境の下で貧しい暮らしを余儀なくされていれば、ISなどのイスラム過激派の甘言に乗せられ、テロリストの仲間に入ってしまうのも無理からぬことかもしれません。 欧州諸国は、これほどまでにテロが発生している状況に鑑み、この原因を分析して早急に対策を打ち出すべく既に動き出しているようですが、自国民の雇用確保との兼ね合いもあり、その効果が現れるにはまだ時間がかかると思われます。
バルセロナのテロはなぜ防げなかったのか?
バルセロナでのテロが起きる2か月前に、西側の某情報機関が「バルセロナはイスラム過激派の主要なテロの標的になっており、同市の目抜き通りで車両による無差別テロが起きる可能性がある」との情報を入手していました。この情報は、当然スペイン当局、カタルーニャ州政府にも伝えられていましたが、なぜかテロを防ぐことはできませんでした。 その理由として考えられていることは、トラックやバンなどの自動車を使用したテロは、ニース、ベルリン、ストックホルム、ロンドンなどで立て続けに発生していますが、通報を受けた側は、現実に脅威が差し迫っているとは思いつつも、テロリストの動きが具体的に把握できていなかったふしがあります。確かに、同国の治安・情報機関は、図表にあるように、数々のテロ計画を未然に摘発してきました。EU諸国やアメリカなど友好国から見ても、スペインの治安・情報機関は信頼度が高いのです。 実際、今回事件が発生したバルセロナの南にあるカンブリスでも、自爆テロの要員と思われる5人を銃撃戦で射殺し、さらなる大規模テロを防止しました。こうした有能な同国の治安・情報機関からプレッシャーを受けていた「テロ細胞」が、準備が十分整わないうちにテロを軽はずみに実行してしまったとする見方もあります。 しかし、同盟国の情報機関からテロ関連情報が提供されていても、この種のテロを事前に摘発することは極めて困難であるとも言えます。今回のような貴重な情報をテロ対策に役立て、いたずらに犠牲者を出さないよう、より知恵を絞った対策が必要になるでしょう。 ---------------------------------- ■安部川元伸(あべかわ・もとのぶ) 神奈川県出身。1975年上智大学卒業後、76年に公安調査庁に入庁。本庁勤務時代は、主に国際渉外業務と国際テロを担当し、9.11米国同時多発テロ、北海道洞爺湖サミットの情報収集・分析業務で陣頭指揮を執った。07年から国際調査企画官、公安調査管理官、調査第二部第二課長、東北公安調査局長を歴任し、13年3月定年退職。16年から日本大学教授。著書「国際テロリズム101問」(立花書房)、同改訂、同第二版、「国際テロリズムハンドブック」(立花書房)、「国際テロリズム その戦術と実態から抑止まで」(原書房)