英クラブから日本の10番へ「オファーくれた」 “株上昇”で渡英…ファン拍手喝采「本当嬉しい」【現地発コラム】
攻撃陣の一員として失点の多いチームを救えるか
QPR最大の難点は、24チーム中ワースト2タイの失点数となって表れている、中盤中央と最終ラインの強度不足にある。しかし、攻め勝ちたいチームであるだけに、誰が先発しても心許ないセンターフォワード(CF)の決定力不足も悩ましい。となれば、得点面の責任を攻撃陣で分担する必要がある。 監督のやりたいサッカーが垣間見られたハル戦、斉藤はリプレーを見るかのような右足シュート2本で、移籍後初ゴールに迫ってもいた。幻の先制点は、相手GKのセーブを褒めるべき。2-2の同点はゴールポストに阻まれた。その間には、新CFジャン・ツェラルのヘディングが枠を外れたが、巧みなコントロールでマークを剥がしてからのクロスでチャンスを演出してもいた。 試合終了の笛とともに、ホームで2試合続けてブーイングが起こったポーツマス戦でも、ファンは認めるべきプレーには拍手喝采を送っている。ライン越しのボールを的確なタッチでものにしてからの低弾道クロス、キープから反転してのドリブルで奪ったフリーキックといった斉藤のプレーにも。 「集中しているので分からないですけど、そうやって歓声が起こるのは本当に嬉しい。でも、結果につなげないと、せっかくの声援も意味がなくなってしまう。もう、自分に任せれば何かやってくれるとか、点が取れるとか、チームの全員に思わせないとダメだなと思うので、気持ちを入れ替えてやっていきたい」と、試合後の本人。 歓迎したい自己顕示欲だ。和製フットボーラーに対する好評価の一因でもあるが、ハードワークが当然の日本人選手には、失われようのないレベルで「フォア・ザ・チーム」の精神が宿っているのだから。 リーグ全体が激戦区とも言えるチャンピオンシップでは、適応時間をも自力で勝ち取らなければならない。QPR、そして新戦力の1人である斉藤には、「焦燥感」を「激烈感」に、そして「危機感」を「使命感」に変えるべき時が訪れている。 [著者プロフィール] 山中 忍(やまなか・しのぶ)/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。
山中 忍 / Shinobu Yamanaka