鳥谷に続く激震!阪神掛布SEA今季限り退団真相
2軍監督をしたことで育成に興味を持ち、それが阪神の未来に最も重要なことだと痛感した掛布氏は、当初、日ハム、広島など育成に成功している他球団のシステムを視察しながら、育成についての理論を突き詰め、それを球団に還元したいと考えていた。球団からは他球団の視察などにOKは出たが、そういう意見や情報を吸い上げようとするような姿勢はなかった。またスカウト登録をして、アマチュアの指導者世代では、知らない人のいない、その顔を使いスカウト活動の手伝いをしたいとの提案もしたが採択されなかった。 坂井オーナーと違って藤原オーナーと2人きりで野球を見ることは一度もなかった。 甲子園に呼び出されるのは、本社との深いお付き合いのある関連企業や、スポンサーなどの要人、客人がくる際の“接待役”。藤原オーナーの出身校である大阪府立大のトップが来たときも掛布氏がナビゲーター役を務めた。その解説や野球知識、経験談は、来客には評判だったというが、藤原オーナーからチームに対する意見を求められるようなことはほとんどなく、あるとすれば、報道陣に囲まれたときに、どう答えるか、という程度のもの。掛布氏も一歩引いて自らチーム編成や采配について具申するようなこともしなかった。 掛布氏は、現場の矢野監督に迷惑が及ぶことを懸念してグラウンドに出ることも控えるようにしていた。それでも一部のフロントからの要請、声かけもあり、不振の糸井から助言を求められると神宮球場の裏のロッカーで実際にバットを振りながらヒントを伝えたし、先日も、矢野監督から「助言してやって下さい」と言われ、悩める大山にアドバイスも送っていた。 一部のファンの間からは、掛布氏のSEAの仕事内容について疑問を抱く声もあるが、経営者が、その給料に見合う仕事を掛布氏に求めなかったことも逆に問題だ。 藤原オーナーの“ブレーン”は、元松下電器野球部の監督で、高校野球の解説でも知られ、現在、県立岐阜商監督をしているアマチュア界の重鎮、鍛治舎巧氏で、野球に関する相談は、この人にしているという。なぜ身近にいる“ミスタータイガース”を活用しなかったのか。不思議でならないが、元々、それくらいの信頼しかなかったから1年限りで“お引き取り願う”と決めたのだろう。村上ファンドに企業買収をかけられた阪神に阪急が“ホワイトナイト”として手を差し伸べて、経営統合、阪急阪神ホールディングスとなって13年目。これまで“聖域”だったタイガースへの干渉を徐々に強めている旧阪急グループが、古い阪神色を消し、新しいタイガース像を構築したいとの意向を持っていることも掛布氏の退任に影響しているのかもしれない。 今回、サンスポの報道が出たことを受けて掛布氏への取材をNGとすることが球団から報道各社に回った。掛布氏はコメントしていないが、親しい関係者には、「肩の荷が下りた。阪神には感謝の気持ちしかないし、ある意味、すっきりとしている。今後は、客観的な立場で阪神を見守っていきたい」と漏らしているという。 鳥谷に続き、掛布氏というレジェンドの退団。個人的には、経営者判断として2人への処遇は間違っていないと思う。ファンの間に蔓延る「阪神は情けがない」という感情論も時間が経てば静まるだろう。 だが、選手や功績を残したOBの後ろにはファンがいることを忘れては、エンターテインメントビジネスを行う資格はない。彼らへのリスペクトがなければ、それはファンをリスペクトしていないのと同じこと。球団は、新しい阪神を模索しているらしいが、伝統を軽んじて、やり方を一歩間違えることが、暗黒時代へ逆戻りすることに気づいていないのだろうか。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)