ヤギの恵み・シェーブルチーズ 旬の甘さとコク、最高においしく味わえる名店
連載《グルメモード》
ナチュラルチーズにも旬がある。フランス語で「シェーブル」と総称されるヤギ乳から作るチーズは、春から夏にかけてが一番おいしい。お母さんヤギが3月末から4月に出産期を迎え、シェーブルの生産が本格化するのがこの時期だ。牧草地に草が青々と茂るにつれて、それをはむヤギの乳は量と風味を増し、シェーブルも一層味わいを深める。 【写真はこちら】ビストロ・サン・ル・スーの名物料理「カスレ」、ランマスでしか食べられないというチーズ「ドーストン」もチェック! ヤギ乳はヒトの母乳と成分が近いため、シェーブルは体に優しく、健康増進に役立つといわれる。ミルクの甘さが感じられて食べやすい。作りたては特有の酸味を持つが、熟成するにつれて和らぎ、コクが増す。熟成による変化が大きいのも魅力だ。
■老舗ビストロで思わず注文する「こしゃくなサラダ」
JR中央線の西荻窪駅(東京・杉並)の南口から徒歩4分。平和通り沿いにある老舗「ビストロ・サン・ル・スー」は、今年で創業29年目を迎える。サン・ル・スーはフランス語で「一文無し」という意味だが、いかにもビストロ的で愉快。シェフの金子淑光さんと妻でサービス担当の智恵美さんの2人がフランス修業中、すっからかんになるまで食べ歩いたのが名前の由来だ。 オープン当初から提供し、ファンがあまりにも多くてメニューから絶対に外せない定番中の定番になった前菜が「サラド・ド・シェーブル(ヤギ乳チーズのアーモンド衣焼きサラダ)」だ。店の看板コース(6800円)は前菜・メイン・デザートをそれぞれ選べるプリフィクススタイル。前菜は常時17~20種、使っている材料も多種多様でよりどりみどりだが、このサラダしか頼まない常連客も少なくない。たまには他のを食べてみたいのに、思わず注文してしまう「こしゃくなサラダ」と表現する人もいるそうだ。
■アーモンドの衣をまとった1皿、「これだ!」
代表的なフランス産シェーブル「クロタン・ド・シャビニオル」をオーブンで焼き、熱々を葉野菜にのせたサラダは、パリのビストロやブラッスリーの人気メニューだ。金子夫妻もいろいろな店で食べてみたが、どこもピンとこなかった。 2人がついに納得できる1皿に出合ったのが、南仏コート・ダジュール地方の小さな町、バンドールのホテル・レストラン。シェーブルにアーモンドの衣をまとわせ、香ばしさとカリカリ感がシェーブルの滑らかさを引き立てる。相性の良さに感激した。 その組み合わせをもとに、淑光さんはさらに洗練された前菜に仕立てた。シェーブルの名産地、ロワール産の極上品を厚切りにし、小麦粉をまぶして溶き卵にくぐらせ、スライスアーモンドを張りつけてフライパンでじっくり両面をソテーする。ここにバターとベーコンを加え、みずみずしいサラダの上にのせてベーコンの脂をジュッとかけて完成だ。 「高度なテクニックは要さないシンプルなサラダですが、葉野菜は7~8種を使うなど材料をそろえるだけでも大変で、家で再現するのは難しい」と智恵美さん。チーズとワインはその土地の産物同士を合わせるのが間違いなく、ロワール地方の白ワイン、ソーヴィニヨン・ブランと一緒なら素晴らしい余韻が楽しめるだろう。