スーツの仕立て、ポイントは肩にあり──テーラリングのエキスパートに訊く
自分に合ったショルダーラインを知ろう。 筋トレで腕を鍛える日を除けば、たいていの男性は肩のことなどあまり意識しない。しかし、テーラーは普通の男性とは違う。彼らは肩について頻繁に考える。なぜなら、スーツを完成させるために必要な多くの要素の中で、ショルダーラインほど全体のルックに影響するものはないからだ。そして、その影響度はラペルの形にさえ勝る。もしあなたが誰かのスタイルを見て「なんていいスーツなんだ」と思ったことがあるとしたら、それはたいていよく仕立てられた肩という目に見えにくい構造に起因しているのだ。 【写真を見る】オースティン・バトラーからハリー・スタイルズまで、様々なタイプのスーツを着こなすセレブたち。 「ジャケットを羽織った人を見たとき、最初に目に入るのが肩です」と話すのは、ニューヨークのJ.ミューザー・ビスポークの創業者ジェイク・ミューザーだ。「同じラペルの形でも、ショルダーラインが違えば印象は大きく変わります」。ジャケットの肩は何層にも重ねられた内部パッドによって構成されており、これが着る人の体型を強調したり装飾したりすることで、スーツ全体の雰囲気を作り出しているからだとミューザーは説明する。 「肩の形と幅は、肉体的な存在感を伝えるものです」。香港の著名テーラー、アーモリーの共同設立者であるマーク・チョーは付け加える。「顔に合った眼鏡と同じように、頭を縁取る役目をするのが肩なのです」。そして、その形は多種多様である。ソフトショルダーのなだらかな傾斜(しばしば「シャツのような肩」を意味する「スパッラ・カミーチャ」と呼ばれる)から、近年マーク・ジェイコブスが好んで用いてきた尖りのあるパゴダショルダーまで。 ■オケージョンに相応しいショルダーラインとは ショルダーラインのもうひとつの重要な要素は「ローピング」である。これは袖付けの手法のことで、肩先に隆起があるものをロープドショルダーという。肩にパッドやローピングが施されているかによって、ジャケットがクラシックに見えるかモダンに見えるか、フォーマルに見えるかカジュアルに見えるか、役員室に相応しいかヨットでのバカンスに相応しいかが決まる。 ショルダーラインは、それを仕立てた人がアメリカかイギリス、あるいはイタリアのいずれの国で修行したかによっても違ってくる。「南イタリアで作られたキートンのジャケットを着た人を見ると、サヴィルロウで作られたものとはまったく違うショルダーラインなのがわかるはずです」と、ミューザーは言う。ローピングが際立つ、パッドが多めに入った肩は伝統的な英国テーラリングの代名詞であり、ジャケットによりフォーマルでクラシカルな雰囲気を与える。一方、多くのナポリのテーラーが好むパッドが少なめの自然な(つまりローピングのない)肩には、よりノンシャランな雰囲気が漂う。 ■自分の体型を意識しよう ここまでに述べてきたことがややこしく専門的に聞こえるのはその通りだ。よく仕立てられたショルダーラインには多くの要素が絡み、しばしば美しいスーツとそこそこのスーツを分け隔てもする。しかし、柔らかなナポリのスタイルとかっちりとした英国式の本質的な違いを見分けるのに、袖山の手縫いの方法まで知っている必要はない。「ロープショルダーと2枚重ねのショルダーパッドを見分けるボキャブラリーを持っていなくとも、違いはすぐにわかるはずです」というのがミューザーの意見だ。 スーツをオーダーメイドするにしても、既製品を購入するにしても、どのタイプのショルダーを選ぶべきかは、いくつかのポイントに左右される。まずは、自分がどれだけ鍛えているかだ。「なで肩の場合、(パッドで)ちょっと構築的にしたほうがいいでしょう。逆にがっしりとした体つきの場合は、パッドを入れる必要はないかもしれません」 腕のいいテーラーなら、あなたの体型に合ったショルダーラインに仕上げてくれるだろうが、既製品のジャケットを買う場合は少し慎重になるべきだとチョーはアドバイスする。「私はいつも、その人の実際の肩幅より少し広めのものを選びます。そのほうが頭の高さが高く見え、肩も少しゆとりができますから。自然な肩のジャケットを買うときは、幅が狭めのものよりも広めのものを選ぶといいでしょう」 体格もさることながら、もうひとつ重要なのは、どこでどのように着るかということだ。「ソフトで、あまり構築的でないショルダーは、ポロシャツやセーター、ジーンズなどのよりカジュアルなスタイルに合わせて、気軽に羽織ることができます。かっちりとしたロープドショルダーは、よりドレスアップしたコンサバティブなルックに適しており、ほとんどすべてのイブニングウェアにおすすめです」と、ミューザーは言う。 何を選ぶにしても──特に既製品を購入するのであれば──最初に自分に適したショルダーラインをきちんと選んでおくのが重要である。購入後の仕立て直しは望めないからだ。「お直しの店で肩を仕立て直してもらうのはおすすめしません」と、チョーは言う。とても複雑な作業で、うまくいかないことのほうが多いのです」 From GQ.COM By Jeremy Freed Translated and Adapted by Yuzuru Todayama