【ライブレポート】水野ねじ、弾き語りで紡いだ剥き出しの感情「心の矛盾をなんとか歌にしたい」
水野ねじの弾き語りワンマンライブ「シンガーソングライター」が9月27日に東京・ニュー風知空知で開催された。 【写真】アコギを爪弾く水野ねじ 開演前、「水野ねじの血肉」と題されたプレイリストが流れる場内。来場者は入り口で水野おすすめのマカロンを1つずつ受け取り、各々の席に着く。水野は白Tシャツにサンダルという飾らない姿で登場。「濃いワンマンになると思います」と告げた彼はアコースティックギターを鳴らし始め、「病気と光」の切実なリリックを紡いでいく。「ウォーキングブルース」では水野が体をくねらせながら歌い、詞の世界が全身で表現された。 心地よく乾いたコードストロークで始まったのは「しおかぜに乗って」。夏の日のたわいないやり取りが、水野特有のざらついた声で表現される。「夕焼け小焼け」「暮らしの最後」を経て、「東京の私」でフォーキーなギタープレイを披露する水野。首元に汗を光らせながら、彼は最新アルバム「ぼくらのれくえむ」の制作を振り返る。「このワンマンに向けてフルアルバムを作ったから時間がなくて。入稿前日に10時間くらい作業して。もう疲れ果ててさ。なので、誤字があります」と弁解し、観客の笑いを誘った。 アコースティックギターからガットギターに持ち替えた水野は、初めて失恋したときに作ったという曲の一節を歌唱。「聞いてられないでしょ。めちゃくちゃ女々しい歌(笑)」と口にして演奏を止めると、サンダルを脱ぎ椅子の上であぐらをかく。寝床でささやくように歌われたのは「おつかれさまだよ」。最新アルバムの収録曲「さこちゃんの描いた絵」では、健康的なメロディに不健康な詞を乗せるという水野のお家芸が存分に披露された。 「君んち」は、水野が岡野大嗣の短歌から着想を得て制作した楽曲。まさに短歌を詠むかのごとく、ぽつぽつと呟くように同曲が歌われたのち、水野はワンマンライブ開催について「これがずっとやりたかった。正解とか不正解とかを気にし過ぎると、本当に何もできないんですよ。そういうのはもうやめようと思って。やりたいことがやるべきことだから。……っていう気持ちにやっとなれました」と吐露。ライブはラストスパートに突入し、「激情」で水野の眼差しはどんどん鋭さを増していく。「音楽」「ピンサロ」は命を削るように、叫びにも似た声で届けられた。 「ネオンライト深海魚」で切なく繰り返される「ごめん」というフレーズ。水野は顔をくしゃっと歪めながら「誰に対してのごめんだろう」と自問自答し、その真摯な表情が観客の視線を釘付けにする。続く「歌をつくるのだ!」では、水野の音楽に対する思いが純度100パーセントで届けられた。 「僕は暗いほうの人間で。お察しの通り(笑)」と切り出す水野。「夏休み終わりの『みんな生きて!』みたいな空気がすごく苦手で。死んでもいいじゃんって。でもやっぱ生きなきゃって。その心の矛盾をなんとか歌にしたい。成仏させたい」と語った彼は「ぼくらのれくえむ」をスタートさせる。まっすぐな詞がまっすぐなメロディに乗ってこだまし、「グッバイ」という言葉が繰り返し放たれた。 この日のラストナンバーは「部屋の中で」。水野は「この曲、カポ5なんだけどさ。気持ちを込めるときってね、キーを下げるんです。下げるとグッと気持ちが入る。凝縮されていく」と解説し、カポを4フレットに付けて歌う。「金曜の夜にどうもありがとう」という本公演にぴったりなフレーズが下北沢の夜に響いた。 ■ セットリスト □ 「シンガーソングライター」2024年9月27日 ニュー風知空知 01. 病気と光 02. ウォーキングブルース 03. しおかぜに乗って 04. 夕焼け小焼け 05. 暮らしの最後 06. 東京の私 07. ナイトポップ 08. おつかれさまだよ 09. ファミマ 10. さこちゃんの描いた絵 11. びびあんの土星のわっか 12. 君んち 13. room music 14. 激情 15. 音楽 16. ピンサロ 17. 15A 18. ネオンライト深海魚 19. 歌をつくるのだ! 20. ぼくらのれくえむ <アンコール> 21. 部屋の中で