アップルやグーグルはいかに巧妙に市場を独占してきたのか、巨大IT規制法導入の背景
■ App Storeを支配する「アップル法」 ──たしかに売り上げから30%の徴収は大きいですね。 岸原:また、これはあまり知られていないことですが、ウェブ上でアプリを購入すると、クレジットカードによるわずか3%の手数料でアプリを購入することができます。つまり、スマホ内のアプリストアでアプリを購入するほうが、ネットで購入するよりも高いのです。 ところが、「ネットで購入したほうが安い」という事実をアプリストアの中で告知することは禁止されており、そのことを記載した事業者はアプリストア内での販売を止められます。 ──それは事業者に対しても、消費者に対してもアンフェアですよね。 岸原:このような問題意識が前提にあり、「スマホソフトウェア競争促進法案」が作られました。この新法が対象とするのは、主に「アプリストア」「モバイルOS」「ブラウザ」「検索エンジン」の4つの項目です。 ◎スマホソフトウェア競争促進法案【概要】(公正取引委員会) 一定規模以上の巨大IT企業に、事前規制として禁止事項と遵守事項を定める法律です。よく知られている「独占禁止法」は事後規制であり、執行に時間がかかりますが、IT企業は動きが早いので、事前規制の法律が提案されたのです。 特に、アプリ事業に関連が深いのが「アプリストア」と「モバイルOS」といった項目です。 新法が目指す「信頼あるアプリストア間の競争環境」とはどのようなものか。たとえば、新宿を例にとって説明すると、新宿には、伊勢丹、三越、小田急などの出店を審査するデパートがあり、各デパートの中には様々な店があります。その他、多種多様な店が自由に出店する競争環境の中でサービスの向上を実現しています。 一方でiOSを例にとると、アップルのアプリストアの中でだけアプリが販売され、スマホの中に他にアプリを購入できる場所はありません。その結果、アップルが提供するアーキテクチャが法律を上回る権限を持つことになり、「アップル法」「アップル税」とも呼ばれるように、アップルの敷いたアプリ販売のルールや徴収が絶対になっている。 具体的には、アプリの販売において「独自性」や「アプリらしさ」といった抽象的な観点で、アプリストアに置いていい製品かどうか、厳しい審査が行われます。 ──方向性の似たアプリを複数出すことは許されないということですか? 岸原:そうです。すでにApp Storeで販売しているアプリに似たアプリは「スパム」の扱いを受けます。既存のアプリにどこまで似ているかが厳しく判断されますが、「アプリらしさ」という審査基準も抽象的です。 ──たとえば、「落ちゲー」のようなゲームアプリがあった場合、いくつかのゲームは、ある程度似ていても販売を許可されるけれど、残りは全部ダメという扱いになる場合もあるということですね。