多くの人の生活を支える「大事な仕事」ほど給料が安いという「厳しい現実」
「クソどうでもいい仕事(ブルシット・ジョブ)」はなぜエッセンシャル・ワークよりも給料がいいのか? その背景にはわたしたちの労働観が関係していた?ロングセラー『ブルシット・ジョブの謎』が明らかにする世界的現象の謎とは? 【写真】日本人が知らない、「1日4時間労働」がいまだ実現しない理由
経済停止と「エッセンシャル・ワーカー」
3K労働の定義のなかにあげられた職業には、「建設・土木、ゴミ処理などの肉体労働や、警察官や看護師、介護士」とありました。お気づきのように、これらはいわゆる「エッセンシャル・ワーカー」に属しています。 『ブルシット・ジョブ』には「エッセンシャル・ワーク」という概念はあらわれません。この概念はつい最近までそれほど流布していませんでしたし、この研究のテーマはあくまで「ブルシット・ジョブ」のほうです。 だからここでは、「非BSJ」と消極的なかたちで表現されるか、あるいは「実質ある仕事」と積極的なかたちで表現されるかしても、便宜上というニュアンスが強く(BSJのなかにもふくまれる実質のある仕事についてもいわれています)、主題になることはありませんでした。 「エッセンシャル・ワーク」ないし「エッセンシャル・ワーカー」という概念が浮上してきたのは、もちろん、COVID-19パンデミックのもたらした「ロックダウン」、日本では「自粛」状況です。 それがグレーバーのかねてよりのBSJについての主張を事実によって裏づけたという感もあり、「エッセンシャル・ワーカー」という概念にひそむ認識と共振したようにもみえます。 グレーバーはずっと「必要のない仕事は存在する」と論じてきました。とはいえ、「経済」を止める以外に、この世界が回っていくのになにが必要か必要でないかをみきわめる方法はありません。 だから、「経済」が停止するという事態は、実験が不可能な社会科学的領域において、そうそうある機会ではなかったのです。ところが、このパンデミック状況が、皮肉なことに、それを可能にしました。 グレーバーは、パンデミック初期、2020年5月のインタビューでこう述べています。 長いこと、世界中の政府が、こんなことなんてありえないとわたしたちに説きつづけてきました。すなわち、ほとんどすべての経済活動が停止すること、国境を閉鎖すること、そして世界規模で緊急事態が宣言されることです。3ヵ月ほどまえまでは、GDOが1%減少しただけでも大惨事になるとだれもが予想していました。ゴジラみたいな経済的怪物に、わたしたちが押しつぶされてしまうかのように、です(中略)ところが、だれもが自宅でじっとしていましたが、経済活動の減少はたった3分の1です。すでにこれ自体、ぶっとんでますよね。だれもが自宅にじっとして、なにもしないとすれば、経済活動は少なくとも80%ぐらいは低下するようにふつう考えませんか。ところが3分の1なんです。いったい、経済を測定する尺度ってなんですか?