モスル陥落もISは国外拠点で「カリフ国」再建目指す? なお続くテロの脅威
中東、アフリカ、アジアなどに拠点構築
シリアとイラクで打ち立てた「カリフ国」が崩壊しても、ISはその実質的な機能を国外に移転すれば体制は維持できると考えています。ISが早い時期から国外に拠点を築いてきたのは、カリフ国の世界展開という目標を達成すると同時に、初段階から今日の事態を予想していた節があります。 ISの拠点は、「ウィラヤト」(Wilayat=州の意)と呼ばれ、シリアの首都ラッカのほかにイドリブ、ハマ、そしてイラクのニナワ(モスルを含む)、キルクーク、アンバルに置かれました。さらに、海外展開を目指し、中東、アフリカ、アジア、コーカサス地方にもいくつかウィラヤトを構築しました。国外においては、まず、現地過激派組織に最高指導者バグダディへの忠誠を誓わせています。こうして次々に登場したのが「国外ウィラヤト」です。
イラクとシリアで「カリフ国」再生がほぼ不可能になった現在、ISがこれらの拠点で「カリフ国」の再建を目指していることは疑いの余地はありません。いずれも政府の統制が及んでいない地域ばかりが選ばれています。 東南アジアでも、フィリピンのミンダナオ島のようにISに忠誠を誓っている現地組織が、バグダディの承認を得てさらに強固な拠点づくりを進めています。 したがって、各国政府は協力してISの空白地進出を何とか食い止める努力が必要です。ISの密かな策謀を野放しにしていたら、いままでイスラム過激派の浸透が見られなかった国にもその毒牙が迫ってくるのは間違いありません。多くの外国人戦士が母国への帰還を果たしていることから判断しても、ISにはまだその力が残っているのです。
------------------------------------- ■安部川元伸(あべかわ・もとのぶ) 神奈川県出身。75年上智大学卒業後、76年に公安調査庁に入庁。本庁勤務時代は、主に国際渉外業務と国際テロを担当し、9.11米国同時多発テロ、北海道洞爺湖サミットの情報収集・分析業務で陣頭指揮を執った。07年から国際調査企画官、公安調査管理官、調査第二部第二課長、東北公安調査局長を歴任し、13年3月定年退職。16年から日本大学教授。著書「国際テロリズム101問」(立花書房)、同改訂、同第二版、「国際テロリズムハンドブック」(立花書房)、「国際テロリズム その戦術と実態から抑止まで」(原書房)