モスル陥落もISは国外拠点で「カリフ国」再建目指す? なお続くテロの脅威
過激派組織「イスラム国」(IS)はシリア・イラクでの拠点を失っても抵抗をやめることはないだろうと、元公安調査庁東北公安調査局長で日本大学危機管理学部教授の安部川元伸氏は指摘します。ISは今後どうなっていくのか。安部川氏に寄稿してもらいました。 【図】フィリピン戒厳令1か月超 アジアで新たな拠点構築進める「イスラム国」
ISは拠点を失っても抵抗はやめない
イラクのアバディ首相は、過激派組織「イスラム国」(IS)のイラクにおける最大拠点モスルは既に陥落したと宣言し(7月9日)、現在はIS兵士の残党狩りが始まり、戦闘は最終局面を迎えています。IS側も住民を盾に必死の抵抗を試みたものの、攻め手のイラク軍、シーア派及びスンニ派民兵、クルドの武装組織「ペシュメルガ」などの合同軍に押し切られてしまい、大量の戦死者を出して敗退せざるを得ませんでした。残されたISの兵士たちには、投降するか死ぬまで戦い続けるかの二つの道しか残されていませんが、これまでのISの戦い振りを見ても、恐らく投降はせずに、住民らに紛れ込むなどして何とか敵の包囲網をくぐり抜けようとするでしょう。 しかし、モスルが陥落すれば、それでシリア、イラクにおける内戦とISによるテロ行為は終結するのでしょうか?ISの兵士が全員討ち死にするようなことは決してありません。兵力を分散させ、どこかに潜伏し、ゲリラ戦で抵抗してくると思われます。 ISがなぜモスルをイラクの最大拠点にしたのか、その理由は明快です。モスルを含むイラク北西部には少数派のスンニ派住民が多く居住し、スンニ派過激組織のISは住民からの支援が得られやすく、インフラも整えやすかったからでしょう。シーア派が支配する政権への攻撃、シーア派への憎悪を煽り、自分たちに同調して戦いに参加する戦闘員も徴募しやすかったためと思われます。拠点が攻め落とされても、生き残った兵士を匿(かくま)ってくれる住民は存在します。また、ISの兵士がイラク軍や警察官の制服を身に付け、住民や政府軍を騙して不意打ちにするという実例も報告されています。 イラクではサダム・フセインの時代が終わり、その後、民主選挙とはいえ、数で勝るシーア派が選挙に勝利することは当然の成り行きであり、シーア派は政治の実権を握って思うままに国を動かし、富を独占してきました。この構図は、誰が首相になっても変わることはありません。だからこそ、ISのような過激派組織が生き残る余地があるのです。 モスルを失い、ゲリラ組織に姿を変えたISの残党が、その戦力を大幅に減らしはしたものの、引き続きバグダッドの政権、シーア派のコミュニティ、外国人を狙って神出鬼没のテロを行う可能性は極めて高いと言えます。 米国の研究所の試算では、イラクとシリアでは、ISの外国人戦士約3万人のうち、2万人以上は戦死したとしていますが、数千人といわれるISの現地メンバーは、帰るところはありません。しかし、彼らは、地の利を生かして市民社会に溶け込むことができます。一度は武器を捨てたとしても、イラクでは自由に武器を調達でき、自爆のための火薬も豊富にあります。したがって、イラクでは、今後も一般市民、政府関係者、シーア派住民らに対するテロに十分警戒する必要があるでしょう。 シリアでも、ISが“首都”を構えていたラッカはほぼ全域を奪還されています。周辺にわずかながら拠点を維持しているとは言え、この先長く持ちこたえることもできず、ISの幹部や生き残った兵士たちは、既にイラク国境の方向に移動しているとみられています。