種子法廃止は権利の保護か、公共性の排除か? 世界の動きと日本の立ち位置
世界的に進む「育成者権」の強化
「日本とは随分、事情が違うところもありますよね。でも無関係ではないんです」。上映後、内田さんは参加者にこう呼び掛けました。 農作物を含めた植物の品種開発に関するルールは、日本をはじめ世界70カ国以上が締結する「UPOV(ユポフ)条約」という国際条約で定められています。1991年に改定された新条約では、すべての植物について登録から20年以上(永年性植物は25年以上)育成者権が保護されます。 この条約とも連動し、日本では「種苗法」で育成者権を規定しています。野菜を中心に米(稲種)や麦(コムギ種など)も例外でなく、国に品種登録することで25年から30年間、その品種を開発した「育成者」に種苗や収穫物を利用する権利が与えられます。他人がその品種を「業」として利用したい場合は、育成者の許諾を得なければなりません。 これまで米、麦、大豆は種子法によって品質管理の基準などが定められていましたが、国は種子法廃止に伴い、その基準を種苗法の下に移管することにしました。種子法を廃して実質、種苗法に一元化すると言えます。 種苗法による育成者権は、UPOV加盟国同士でその品種が保護対象であれば海外でも同様に認められます。ただし、先の平昌五輪カーリング女子日本代表の「もぐもぐタイム」で注目を集めた韓国産イチゴのように、条約や法制度をすり抜けて海外に流出し、栽培が既成事実化してしまうことも。そうしたことをなくすため、世界的に権利は強化されていく流れですが、一方で権利強化は独占や排除につながります。際限なく権利を認めてしまうと公共の利益や文化が損なわれる面もあり、権利と利用のバランスが問われるのです。 内田さんはこうした点から種子法廃止の意味を「農業としてのタネだけでは把握できない」と、知的財産の問題として強調しました。
「廃止されて終わりではない」
米国を除く環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加11カ国で署名した「TPP11」では、UPOV条約の批准が参加国に義務化されています。ASEANや中国、韓国を含めた東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉も同様で、UPOVをアジアに広げる動きの旗振り役を日本政府が担っていると見られているそうです。日本のタネの権利を認めさせる一方、アジア諸国からすると日本がタネを奪おうとしているのではないか。逆の立場からも考えなければなりません。 「そういう意味で、私たちも無関係ではいられない」と内田さんはあらためて訴え掛けました。 上映会に続く記念トークに登壇した農民運動全国連合会の齋藤敏之さんは、農家の立場から「私はタネを農民のものと思ってきたが、そうではないものにするのが種子法廃止の動き」と指摘。行き着くところは土地や人間とは切り離された「工業的な農業」で、それが果たして持続可能なのだろうかと疑問を呈します。 「日本の種子(たね)を守る会」事務局アドバイザーの印鑰(いんやく)智哉さんは、これまで全国35以上の地方議会が種子法廃止に関連した意見書を国に提出していると報告しました。多くはこれまでの都道府県の取り組みが後退しないよう予算措置などを十分確保することや、種子の「独占」を防ぐ対策を講じることなどを求めています。また、兵庫県や新潟県、埼玉県などで独自の条例を制定して、これまでの取り組みを引き継ぐ動きも出てきています。 「地方に行くと、この問題は保守や革新など党派にかかわらず大事なことだと認識されている。皆さんもまずは勉強会を開いたり、市町村単位で意見書を出したりすることから始めていただきたい。種子法が4月に廃止されるから、それでおしまいではない。まだ99%の米は公共品種。米を守り、次は野菜のタネをわれわれの手に取り戻すぐらいに、これをいいチャンスにできるのではないか」と印鑰さんは締めくくりました。 映画はアジア太平洋資料センター(PARC)からDVDを借りて上映会を開催することができます。上映会のための費用は、DVD代金3,000円のほか、上映1回につき上映料10,000円(いずれも税別)が必要、送料や振り込み手数料は主催者負担。申し込みフォームは以下。 ---------- ■関口威人(せきぐち・たけと) 1973年、横浜市生まれ。中日新聞記者を経て2008年からフリー。環境や防災、地域経済などのテーマで雑誌やウェブに寄稿、名古屋で環境専門フリーペーパー「Risa(リサ)」の編集長も務める。本サイトでは「Newzdrive」の屋号で執筆