PK戦で4強進出も残った問題点…なぜNZの「4-1-3-2」システム変更に対応できなかったのか…城氏の五輪分析
決定機を逃すミスが続き、時間が経過、しかも、相手に主導権を握られる展開になると、チームメンタルはたちまち“負のサイクル”に突入していく。その流れを断ち切る手段として選手交代があるのが、その効果はなかった。 森保監督は、後半24分に中山と相馬、林と上田の2枚替えのカードを切り、サイドバックの旗手を相馬のいた2列目に上げるというポジション変更を行った。 旗手は前半からパスがズレるなどのミスが目立っていた。ここは相馬を残して中山と旗手の交代で良かったのではないか。サイドから突破口を開くしかない展開だっただけに、そこで勝負できる選手を残すべきだったと思う。延長戦に入り、旗手に替え三笘、田中に替え板倉を投入したが、Jリーグで敵なしの川崎フロンターレを引っ張る三笘はまだコンディションがベストではなく、膠着状態を打破する救世主とはなれなかった。 チームは中2日で予選リーグを3試合戦ってきた。当然、疲れもあり、そこからパスの精度が落ちリズムをつかめずミスが生まれたのかもしれないが、延長戦を含む120分間の中で、なんとか対応、修正して、そのミスの“ツケ”を回収することはできなかった。 PK戦ではキーパーの谷が殊勲を立てた。非常に落ち着いていた。NZ2人目のカカーチェが左足でゴール左を狙ってきたコースを見事に読み切りセーブした。実は、短い助走の選手は止めやすい。変化をつけにくいからだ。しかもカカーチェは1、2、3のタイミングで打ってきた。そこに谷も息を合わせた。この谷の好セーブが4人目のルイスにプレッシャーを与えた。左足で蹴った彼のシュートはゴールポストの右上を越えていったが、谷はしっかりとコースに飛んでいた。もし枠内にシュートが入っていても止めていただろう。ルイスの助走はゆっくりだった。谷は、体の向き、膝の動きなどを最後まで観察して右に動いた。当然、その谷の動きはキッカーの視界に入る。右への動きが目に入ったルイスはゴールの上を狙うしかなくなりふかしてしまったのである。谷のファインプレーだ。 報道によると、パーフェクトに決めた日本の上田、板倉、中山、吉田の4人のキッカー選択は、立候補で決めたそうだが、全員がPKを得意にしていた選手。彼らは重圧と責任を冷静さという力に変えることができていた。 さて銀メダル以上を確定させる8月3日の準決勝の相手はスペインである。コートジボワール戦では、アディショナルタイムに勝ちこされながらもワンチャンスで同点に持ち込み延長戦で一気に決着をつけ、終わってみれば5-2のスコアで底力を見せつけた。 おそらく主導権を握ることのできない厳しい試合になるだろう。7月17日の五輪直前のトレーニングマッチでは日本が先制してドローに持ち込んだが、あのスペインと同じチームだと考えていると痛い目に合う。あの試合以上の圧力がかかってくると覚悟した方がいい。”前哨戦”では後半23分から投入されていたエースのペドリは、ユーロの直後で体調は万全ではなかったが、今回は全開で出てくるだろう。まず中盤で簡単にボールは奪えない。驚異の縦パスにも対処しなければならない。相当なハードワークが必要となる。 ブロックを固める守備的布陣で前半を耐えきり、ショートカウンターのワンチャンス、あるいはセットプレーでの得点を狙うしかない。今まで以上に先制点が重要になってくるが、点を与えなければ負けないのだ。PK戦を勝ち切った、こういう苦しい試合の後には逆にチームがしまることがある。「こんなんじゃダメだ」と団結する可能性に賭けたい。 (文責・城彰二/元日本代表FW)