札幌ドームの赤字は本当に「日ハム移転のせい」だったのか…いま不振に陥っている「真の理由」
公有公営→民有民営で激的変化
ここから両ドームの道が分かれる。大阪ドームの約588億円という負債に耐えかね、運営元の「大阪シティドーム」が2005年に会社更生法を申請したのだ。その後、プロ野球「オリックスブルーウェーブ」を傘下に持つ金融企業「オリックス」が救済に入り、子会社を通じて「大阪シティドーム」株式の90%を取得。約90億円でドームそのものを買収してしまった。 大阪ドームは公有公営から「民有民営」に転換したことで、減価償却費や債務の負担がほぼ消滅。京セラとの継続的なネーミングライツ契約もあって、財務の改善で設備投資が可能に。球場モニターの拡張・更新、あまりにも魅力がなかった球場内の飲食店の改善など、ファンが観戦を満喫できる環境の改善に資金を投入していった。 また近隣との関係改善とコンサート誘致によって、札幌ドームが年間6件程度しか獲れていない大規模ライブを、25件も誘致できている(2023年で比較)。広告掲出も事前の補償金を廃止することで稼働率を上げ、球場周辺への「イオン」「スーパービバホーム」などの誘致で、平日でも賑わうように街を作り変えてしまった。 オリックスグループは、関西国際空港の長期経営受託や、オリックス劇場(旧・大阪厚生年金会館)など、公的施設の経営再建やコンセッションにノウハウを持つ。いまや年間10億~20億円程度の利益を稼ぎ、法人税もしっかり納税している大阪ドームが、オリックスに救済されずに「公有公営」を続けていれば…いまも“ジリ貧”のまま、赤字と利払いに苦しんでいたかもしれない。
大阪の再建スキーム…札幌ドームで真似できる?
自治体所有、3セク運営の「公有公営」を続ける「大和ハウスプレミストドーム」(札幌ドーム)に、民営化を果たした大阪ドーム×オリックスのノウハウは通用するのだろうか…結果から言うと、「実現すれば良いが、実際にはできない(意地でもしない)」のではないか。 まず大阪の場合は、696億円で建設した大阪ドームを90億円で売却するという、相当な額の「損切り」を行っている。当時の大阪市は、ドーム球場と同様の負の遺産(クリスタ長堀、ATC/WTCなど)を多数抱えて抜き差しならなくなっていたが、札幌市はそこまで追い詰められていない。政治責任を問われる数百億円の“損切り”は、それが経営改善の唯一の答えであったとしても、徹底的に避けるだろう。 また「球団が球場の指定管理者制度を受託」といった手法は、プロ野球では千葉ロッテ・横浜DeNA・広島などが導入しており、実際にファイターズからそういった提案が何度も行われたようだ。また全面的な経営の移譲でなくても、民間に長期間経営を委託する「コンセッション」(公共施設等運営権制度)という手法もある。 しかし、こういった提案はすべて却下され、札幌ドーム経営への本格的な民間介入は拒まれ続けている。札幌市も2022年には施設・公園など145施設で指定管理者を募集するなど民間のノウハウ導入には積極的だが、なぜか札幌ドームだけは、かたくなに「管理運営は非公募、過程が不透明なまま株式会社札幌ドームが受託」状態を貫いたままだ。 直近の市議会資料を見ても、「株式会社札幌ドーム」に関して下記のような見解が出ている。こういった不自然で頑なな動きを見る限り、この後も札幌ドームは、実質的な「公有公営」を守っていくだろう。 「国際スポーツ大会や大規模イベントなどをはじめとした多目的な催物に使用されております札幌ドームが、施設利用の際、迅速かつ適切な対応が求められる(注)ため、施設利用者との継続的な関係を構築(注)し、様々な知識、ノウハウを蓄積していくことが不可欠(注)であることから、指定管理者を非公募として、株式会社札幌ドームを選定してきたものでございます。」(2023年10月 第二部決算特別委員会 札幌市スポーツ局の答弁) ※(注)部分で、「それ民間じゃダメなの?」と突っ込みながらご覧ください