18日に再び「特捜検事」の尋問へ 真実を話すよう迫った検事ら 自ら立った法廷では「記憶にない」「差し控える」 初めて公開「取り調べ映像」の波紋 プレサンス山岸さん国賠訴訟
■認められた映像と認められなかった映像
山岸さんは無罪判決を受けた後、国に対し損害賠償を求める裁判を起こした。今回の映像は、その裁判の証拠として提出されたものだったのだが、机をたたく、大声で怒鳴る部分の映像の公開は現時点で認められていない。なぜなのか。 そもそも弁護団は、この冤罪事件がなぜ起きたのかを解明するためには、裁判所が特捜部の取り調べ映像を見ることは不可欠だと考えている。弁護団は取り調べ映像を刑事裁判の証拠として持ってはいるが“刑事裁判の証拠は刑事裁判でしか使えない”ということを定めた法律がある。いわゆる刑事証拠の目的外使用禁止規定だ。 そこで弁護団は改めて、国家賠償請求訴訟の証拠として映像の提出を国側(検察)に求めていた。しかし、国は頑なに拒否。 そのような経緯を踏まえ、大阪地裁は去年9月、田渕検事が行った5日間、計約18時間に及ぶ取調べ映像の提出を命じた。この中には、机をたたく、大声で怒鳴る取調べも含まれていた。 これに対し、国側は即時抗告を行い、大阪高裁は今年1月、提出範囲をおよそ1時間に狭める決定をしたのだ。大阪高裁はその理由について「山岸さん側が報道機関などを通じて録画録音を公開した場合、元部下のプライバシーを侵害する恐れがある」などと説明した。 山岸さんの弁護団はK氏のプライバシーには十分配慮したうえでの公開を従前から約束し、現に今回の公開もそのような形で行われた。さらに、そもそも冤罪被害にあった山岸さんが、自身の冤罪がどのように作り上げられたのかを立証するために重要な証拠である取調べの映像を、その裁判で使えないという事実が極めて理不尽だ。その判断は今、最高裁に委ねられている。 事件の真実を追求することは、検察が最も大切にしていることだ。その検察が引き起こした今回の冤罪事件。検察は自ら、その取調べで何があったのか、明らかにするべきではないだろうか。
■「特捜部事件」担当の検事が尋問受ける
6月11日。映像公開の後、法廷にはその田渕検事が裁判の証人として尋問の場に立った。田渕検事は今、検察幹部の立場で、特捜部事件の捜査を担当した検事が尋問を受けるのは異例だ。山岸さん側の秋田弁護士・西弁護士が質問をした。 【秋田真志弁護士】「なぜあのような取り調べをしたんですか?」 【田渕大輔検事】「真実を話そうという姿勢がなく、私の話に正面から向き合ってもらう必要があると思いました」 【秋田真志弁護士】「K氏が真摯に向き合っていないから、そういう取り調べ(机をたたく、大声で怒鳴る)をしたんですか?」 【田渕大輔検事】「言葉だけでは進まないと思い、挙動も混ぜたほうが誠実に向き合っていることが伝わると思ったので」 【秋田真志弁護士】「取り調べに反省すべきところはありましたか?」 【田渕検事「使った言葉に不穏当な言葉はありました」 【秋田真志弁護士】「また同じような取り調べをしますか?」 【田渕大輔検事】「まずしないと思います」 自身の取調べについて不適切な部分があったことを認めた田渕検事。尋問を行った弁護士に対しては、こんな発言をする場面もあった。 【田渕大輔検事】「そんな怖い顔で聞かれても…」 【秋田真志弁護士】「怖い顔してないし、私とは距離もあるし、机もたたきませんよ」 数時間にわたって行われた尋問だったが、その最終盤。特に印象に残った場面があった。 【西愛礼弁護士】「無罪判決が出て、どう感じましたか?」 【田渕大輔検事】「残念な判決だと感じました。私は有罪維持に十分だと思っていた。しかし、公判ではK氏の供述の信用性も否定された」 【西愛礼弁護士】「山岸さんはいまでも有罪だと思っていますか?」 【田渕大輔検事】「それは立場的に… 答えを差し控えます」 このやり取りから、検察は今でも山岸さんを有罪だと信じているのだと、私は感じた。そして、山岸さんに対する謝罪の気持ちや、後悔や反省のようなものはないのだろうと、改めて認識した。