トレーナーが「野球途上国」からやってきた「プロ野球選手」に伝えるフィジカルトレーニングの重要性
「全体的に瞬発力がないんです。向こうでは持久力を上げるトレーニングが中心だったのではないでしょうか。チームにはインドネシア人の他、フィリピン人もいるんですが、アメリカの影響(フィリピンは旧アメリカ領)からか、そういう点では彼らのほうがインドネシアの選手より優れていますね」 そんな彼らの普段のトレーニングだが、専用のジムもなくなかなか環境的には厳しい状態だ。だからどうしても全体練習は「野球中心」になりがちである。そんな中でも、彼らは彼らなりに情報を仕入れて、研究し、道具を持ち込んで、グランドでの練習の合間にフィジカルトレーニングに励んでいる。それでも、まだまだフィジカルの基礎を底上げする意識は足りないと松本さんは指摘する。 「フィジカル対する意識はないことはないんですが、やはりまだまだ日本人選手よりは低いですね。今はSNSが発達していますから、彼らもアメリカからよく情報を仕入れて実践していますよ。でも彼らの興味はメカニック面に偏っていますね」 つまりこういうことだ。現在、野球のトレーニングの世界では、球速140キロに到達するまではフィジカルの影響が大きいというのが定説となっている。しっかりフィジカルを鍛えあげれば、高校生でもこのスピードまでなら投げることができるというのは、他でも聞いたことがある。 しかし、ドリームズの選手の多くは、そのフィジカルの前に「メジャー仕込み」のメカニック的な部分に気を取られているというのが松本さんの見立てだ。 「東南アジア、南アジアでは野球はまだまだマイナースポーツ。だからトップアスリートは他の競技に流れていきます。そのレベルのアスリートなら、筋肉量はあるけれどもメカニック面でうまくそれを使えていないので、パフォーマンスがうまくいかないということはあるでしょう。でも、ここの選手はまだまだそのレベルではありません。メカニック面に興味をもつことは悪いことではないですけど、要はバランスですよね。彼らには、いくらメカニックを正しく使えても、例えば、この運動をこの数値までもっていかないと140キロは投げられないんだよって説明して、日々のトレーニングメニューに目標値を示しています」 松本さんの言う通り、取材中、ドリームズのピッチャーの投げるボールが140キロを計測することはなかった。彼らはその現実にあらためてフィジカルトレーニングの重要性を感じているだろう。正直なところ、今シーズン中に何とか1勝をあげたいと言う彼らは、まだまだ「プロレベル」ではない。しかし、彼らが日本で1シーズンを過ごし、140キロを投げ、念願の1勝を挙げることができたなら、それは、日本人がこの地域に蒔いた野球の種がようやく根付いたことを示す出来事となるだろう。
取材・文・写真/阿佐智