裁判官の「地域賃金差」は司法劣化の元凶なのか エリート司法官僚が最も恩恵を受ける仕組み
●西川教授「裁判官は『勤務評定』を気にした行動をとるようになる」
人事院は8月8日、2024年度の勧告で、地域手当について10年ぶりの見直しをする措置を求めた。 それによると、現在は東京23区と市ごとに決めている支給割合を、来年度から原則として都道府県ごとに「広域化」する。ただし、都道府県庁所在地と人口20万人以上の市については賃金指数を計算し、所在する都道府県を上回る場合は独自の支給割合を適用する。 現在、20%から3%まで7段階ある級地区分を20%から4%までの5段階に改める。また、異動で支給割合が下がる場合の「異動保障制度」について、現行の異動1年目100%、2年目80%に加え、3年目に従来なかった60%を設ける内容になっている。 この変更を愛知県で見ると、全県が「4級地」の8%になることで、それまで対象外だった蒲郡市や新城市をはじめ町村部にも「広域化」の恩恵が行き渡ることになる。そのうえで、名古屋市、豊田市、刈谷市、豊明市の4市が同じ「3級地」(12%)で並んだ。逆転現象はなくなるが、4市とも減る。このうち、豊田市は人口20万人以上の市にあたるが、刈谷と豊明は20万人未満だ。本来は愛知県の8%に下がるところだが、激変緩和措置で3級地に残ることになった。このように個別市が全体的に下がる中で東京23区は20%を維持した形になっている。 異動保障制度は、支給割合が高いところから低いところに赴任する人のために設けられている。今回の変更で3年目まで保障が伸びることで、3年以内に高い任地に異動すればダメージは小さく済む。東京・霞ケ関から地方に異動して、数年で戻るキャリア官僚向けの制度と見る関係者が多いが、この変更でその性格は強くなった。
支部から支部に異動する裁判官には関係ない話だが、東京中心に異動して、人事や総務的な対応が中心になる「司法官僚」にとっては重要な制度だ。 「虎に翼」のヒロイン、佐田寅子は、最高裁で家庭裁判所の設立に奔走した後、新潟地裁の支部に行くが3年で東京地裁に戻る。いまなら、異動保障の恩恵を受けていた人事だ。佐田の周りにも、最高裁で人事課長や秘書課長をするエリート裁判官たちが描かれている。 霞ケ関の本府省勤務優遇は明白だ。8日の人事院勧告で示された大卒総合職(キャリア)の初任給は14.6%上がって月額23万円となったが、本府省勤務の場合は地域手当と「業務調整手当」もついて、28万4800円となった。 こうした状況について、実際の裁判官の異動記録をもとに裁判官人事を具体的に分析した『裁判所幹部人事の研究』の著書もある明治大政治経済学部の西川伸一教授は「東京を中心に異動して人事や行政的な対応をする『司法官僚』が、全国異動で裁判をする人を支配する実質的な二重構造ができている。エリートは地方に行ってもすぐに戻ってくる」と話す。 支部に行きたがる裁判官は少ないが、誰かが行かないといけない。「そうならないために、裁判官は、事件をためない、控訴されても上級審でひっくり返されない判決を出すといった『勤務評定』を気にした行動をとるようになる」と指摘する。